『ヤバいぜっ!デジタル日本』 高城剛 (集英社新書)
ハイブリッド・スタイルのススメ
この本はたいへん面白いが、ちょっと注意も必要かも。いろいろなツッコミ(たとえば文章の巧拙とか、内容の矛盾とか)を入れずに読むのが、楽しむコツでしょう。高城さん、そういう人なんで。それを承知している私なんかは、全然OKでしたけど。
たぶん、高城さん私と同い年です。当たり前ですけど、私よりずっとマルチで、ずっとクリエイティヴで、ずっとアクティヴで、ずっと有名で、そしてずっとヤバいぜっ!
あっそうそう、「ヤバい」はダブル・ミーニングですね。very bad!とvery cool!の意味です。ですから、この本でもデジタル日本のbadな部分とcoolな部分、両方が取り上げられています。
まずは、badを糾弾します。ゲームもアニメもインターネット自体ももう終わり。音楽業界もダメ、放送と通信の融合も今の発想じゃダメ。そして、何と言っても著作権問題ですね。これについては私は全く著者に同意いたします。CCCDやデジタル放送のコピーワンスなど、非常に馬鹿げた事態について、私もこのブログの中で、何度か嘆息してまいりましたが、実際の制作者側である高城さんが唱える基本開放路線は、実に理にかなっているし、だいいちヴァイタリティーあふれる心強い意見として、激しく首肯される内容になっています。ちょっと過激かもしれませんが、実際御自分でいろいろ実践なさって成功していたりするので、説得力があります。
そして、そういうbadをふまえてのcoolでありますね。まず、日本のお家芸であるコピー力と、そこからさらに新しいものを産み出す能力を高く評価します。そして、異質なものを同時に使う、日本のハイブリッドなスタイルこそ、日本が世界に売り出すべきものだとおっしゃいます。なるほど。発想としては普通なのかもしれませんが、たしかに、それを国のブランディングとして推し進めようという気分とシステムは、今の日本ではほとんど醸成していませんね。
それを実現するための具体的なアイデアも示されていて興味深いのですが、今の日本でやるのにはあまりにも障壁が多そうな気がしないでもありません。でも、こういうことを平気で言っちゃう人、理屈よりも体験に基づいて言っちゃう人の存在というのは、とっても大切だと思います。
この本の中で、ワタクシ的に心に残ったのは、「コミュニケーション」を「思いやり」と訳したところですね。「相手に伝えることが重要ではなく、相手に伝わったかどうか考えること、これが重要だ」という部分には、思わずうなずかされました。どうも最近の若者は(なんて、こと言うようになっちゃったんですね、自分も)、自己主張はものすごく上手になったんですが、どうも筆者の言うようなキャッチボールができないヤツが多くて困る。平気で剛速球投げてくるし、こっちが投げたボールがちょっと外れると、もう最初から取る気なし。優しいキャッチボールが続かない。
あとは、メディアの話。三種類のメディアがあると。ケータイやテレビのようないわゆるメディアと、私たちの身体。そして、第3のメディアが40歳代になって発達した。それは、第六感や虫の知らせのようなものだと言います。そして、メディアの情報総量は決まっていて、例えば第1のメディアから流入する情報量を抑えると、その他のメディアがポイントアップするのだそうです。ありえる話ですね。ちなみに高城さんはなんとテレビを観ないんだとか。
さて、先ほどのコミュニケーションの力を育てるのに、英語とコンピューターのリテラシーが必須だというようなことをおっしゃっておりまして、それはものすごく時代遅れなのか、それともものすごく時代の先端のまた先を行ってるのか、ちょっと判断しかねました(笑)。まあ確かに彼のような生き方をするには、その両方ともが不可欠ですね。その他の日本人にはそのまま当てはまりませんけど。
Amazon ヤバいぜっ!デジタル日本
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コメント
こんばんは!庵主さん。
「コミュニケーション=思いやり」のことは、先日コメントに書いてくださっていましたね。あれ以来、この方の本を読みたいなぁと思っていました。明日本屋さんに行ってみます。
中学のときに通っていた塾の先生が、英語ができるようになりたければ国語力が必須だ!と口を酸っぱくして仰っていました。
そしてそれは本当ですね。中学以上の子を教えてると実感します。
大意を汲み取って読み進める長文読解力は英語云々以前に
想像力を訓練した経験や物語を組み立てるチカラがあるとないとでは
大分違ってきます。だから本を読むことはとても大事なんですよねー
投稿: くぅた | 2006.11.21 21:11
くぅたさん、こんばんは。
コメントどうもです。
この前コメントした時は、めちゃくちゃ酔っぱらってたんで、
何を書いたか全然覚えてませんでした(汗)。
今読み直してみて、まあまともなこと書いてたようで、ちと安心。
ところで、この本はかなりぶっとんでますよ。
高城さんは天才ですので、我々にはできないこともたくさん書いてあります。
国語力は必要ですね。
ただし、教科としての国語ではなくて、日本人としての生活力でしょう。
どれだけアンテナ張って、おっしゃるように想像力を働かすかですよね。
ある意味、妄想力かもしれない。
それは私は得意ですよ(笑)。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.11.21 21:52