空白を〜で埋める
今日は朝4時からたまっていた録画を観賞。一つのテーマが見えてきました。いろいろ観たのですが、二つに絞りましょうか。
まず、東京jazzをたっぷり堪能。マーカス・ミラーやラリー・カールトン、インコグニートが心に残りましたが、いやはや何と言っても豪華ピアニストの競演でしょうねえ。
上原ひろみとチック・コリアのインプロヴィゼーション合戦、非常に親密な会話がなされており、感動しました。上原ひろみもすごいわ。独特のインスピレーションによってチックを刺激していたのがよく分かりました。今後が楽しみですね。こんなことを言うのも何ですが、チック・コリアの音も大人になりましたなあ。ひろみ嬢と一緒だからということもありましょうが、軽みに加えて、ややわびさびが感じられるようになった。
しかし!わびさびと言ったら、もうこの人でしょう。泣けました、ハンク・ジョーンズ翁。今年米寿でしょ。老人力発揮しまくり。15歳のオースティン・ペラルタもいたせいでしょうね、そのほとんど仙人の境地とも言えそうな音世界が、本当に際立って感じられましたね。
同じピアノという楽器の上に描かれる、ペラルタ、ひろみ、チック、ハンクというグラデーション。これは全体として非常に美しい。もちろん、ハンクを頂点としているわけですが、どれもまた魅力的な音楽のあり方でありました。ジャズはいいですねえ。そうしたあり方が可能だから。ジャズ自体が美しき存在である。
で、そのグラデーションとは何なのか。やはり、それは「空白」であり、「間」であり、「省略」であり、「無」であり、「余韻」であり、「余白」であり、「響き」である。そして、これこそ、禅の三昧境であるなあ、なんてつくづく思っていたら、はい、次の番組。
先週録画ミスしてしまった「新日曜美術館〜浦上玉堂」の再放送。これがまた三昧境でありました。ゲストの琴士坂田進一さんとは、何度か酒席を共にさせていただいたことがあります。彼もなかなかの三昧人であります。その坂田さんの七絃琴もまた、美しき空白、余韻を伴います。その演奏にのせて紹介される玉堂の作品群。これがまたすごい。芸術とかエンターテインメントとか、そんなものでくくることのできない世界。誰のためでもなく、なんのためでもない、かと言って自分のためだけの戯れごとでもない。あの空白に見えてくるもの、聞こえてくるものとはいったいなんなんでしょう。ハンク翁もまた、こういう境地に近いのだろうなあ、などと考えておりましたところ…。
玉堂の番組が一通り終わったあとの「日曜美術館放送30年企画」に、その答えがありました。画家小堀四郎さんが、師匠の藤島武二さんについて語ったビデオです。そのまま引用させていただきます。
「藤島先生は芸術によらずすべて人間の作るものは人で、人ができなければいい仕事はできないと。ことに芸術は人間ができなければいい芸術は生まれるはずがないと。人間ができるということは俗世間に求めている間は人間はできるものではないと。それで私には『空になれ、捨てろ、無になれ』とおっしゃいました。物事の本質を先生から教わったという気がしますね。『黒扇』をご覧になってもわかるように余分な筆がございませんし、そしてまた写真のように写実といっても隅から隅まで本物のように描いてもございませんし、やはりそこに先生の装飾性というものも多分にそういう要素が現れていますね。黒い扇を隅から隅まで黒く塗ってしまったらあの絵は成り立ちませんし、響きも余韻も無くなるということになりますね。隅から隅まで描かれていないところに余韻というものも出てくると思いますね。省略したものを充実させるということは、描く人の人柄といいますか、人間のできあがりのあれにもよりますから…」
もうつまらない私の言葉はいらないと思います。もっと老人力をつけないと…。
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