『現代語訳 般若心経』 玄侑宗久 (ちくま新書)
玄侑宗久さんの講演を聴いたのは、もう2年半も前なんですね。というか、そのころのこのブログの記事、短くていいですね。どうもここんとこ、妄想が増すばかりでして。いかんな。不立文字。「コト化」を嫌っておいて、自分は思いっきり言葉の僕になってる。ということで、反省の意味もこめてこの本を読んでみました。
う〜む、なかなかエキサイティングでしたね。なぜかって、だってだって、私がいずれ書こうと思ってることが、どんどん出てきちゃうんだもん。で、ギリギリ肝腎なとこは書いてなかったりして。ヒヤヒヤしながらページを繰っていました。ふぅ、すごいスリルだった。
ま、考えてみれば、それは宗久和尚が書いているというよりも、観世音菩薩さんが、いや結局は釈尊が語っているわけでして、もっと言うならば、この本でも紹介されている、老子や荘子、ハイゼンベルクやヒュームらが気づいてきたことなんですね。だから、別に私のオリジナルじゃないわけで、全然ヒヤヒヤする必要ないんですけど。ただ、私は和語の「もの」と「こと」の語源にさかのぼって、純日本的な感覚の中でそれについて考えたいんですよ。たぶん、それをした人はいないので。
そんな「唾つけ」はいいとして、さてこの本です。般若心経の素直な読みの本としては、現在最高のものではないでしょうか。
私にとっての「般若心経本」の最初は、松原泰道さんの名著『般若心経入門』でありました。私の人生のターニングポイントを作ってくれた思い出の書です。まさに入門には最高の一冊でしょう。それから、こちらのブログでも紹介いたしました桐山靖雄さんの『般若心経瞑想法』も勉強になりましたし、ダライ・ラマの『般若心経入門』も感動的でした。ほかにも数冊読んでいると思います。
そんな中で、この玄侑宗久さんの現代語訳は、実にユニークな形を取りつつ、実は非常にオーソドックスな内容になっているのです。まず、禅定に入っている釈尊に代わって、観自在菩薩(観音)さまが、シャーリプトラ(舎利子)に語るという形式をとっているのがユニークです。それもかなりかなりくだけた調子。くだけすぎギリギリ手前という感じです。しかし、その内容は、よくあるパターン、つまり、お経のパッセージと現実生活の卑近な例とを引き合わせてるというパターンに陥らず、案外に仏教学的に、あるいは哲学史的に淡々と進んでいきます。古今東西の哲学や思想、さらには量子論のような科学まで登場しますが、決してとってつけたような感じはしません。宗久さんの頭の中でよく咀嚼されているから、自然に語られるのでしょうね。
さてさて、そんなわけで、般若心経というお経の神髄に迫るための手引きとして、この本は非常に有用であり、また、しっかり解説しておきながら、結局は呪文のように読むことこそ大切と言うあたり、まさに禅的な面白みになっていると言えましょう。
それで、何がヒヤヒヤだったかと言いますとですねえ、例えば観音さんがこんなふうにおっしゃるわけです。
「ですから仏教的なモノの見方をまとめるなら、あらゆる現象は単独で自立した主体(自性)をもたず、無限の関係性のなかで絶えず変化しながら発生する出来事であり、しかも秩序から無秩序に向かう(壊れる)方向に変化しつつある、ということでしょうか」
まさに一般的な仏教のモノの見方の解説ですよね。そして、こうした実相に対して、人間はいろいろなモノを概念化、粒子化、二元化したがると。どうもそういう生来の性質があると。こうおっしゃるわけです。それが、すなわち「色」であり、実相の方が「空」ということですね。まあ、これも普通の見解です。さらに、「名づけ」により概念が実体化して、空から遠ざかっていくとも。いわゆる分別智ですね。
もうお分かりと思いますが、世の実相、つまり釈尊の言う「空」が、ワタクシの考える「モノ」という言葉が包括する性質であり、概念化、言語化などの結果、つまり釈尊の言う「色」が、ワタクシの考える「コト」に対応するというわけです。で、とにかく宗久さんは、「モノ、モノ」とカタカナでお書きになるので、いつ「コト」が登場するかと、ヒヤヒヤした(笑)。
まあ、所詮ワタクシの戯論(けろん…まさに色)ですから、そんなもんに宗久さんやら観音さんやらお釈迦さんやらが賛同してくれるわけないんですけどね。つまり、このヒヤヒヤは戯論をもてあそんでいる自らの罪に対する後ろめたさなのかもしれません。
でも、この本のおかげさまで、ワタクシの戯論もずいぶんとそれらしくなってまいりました。妄想は膨らむばかりです。いったいどうなることやら。
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