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2006.10.15

『伴大納言絵巻(絵詞)』

542 出光美術館で今やってますね。行きたいけど行けないよ〜。しかたない、今日新日曜美術館で観たんで、それで実際行ったことにします(涙)。
 絵巻物って好きなんですよねえ。若い時は見方を知らず、恥ずかしながら西洋絵画に及ばないものと勝手に断じていました。でも、いろんな人たちに見方というか、すごさを具体的に教えられて、今ではすっかりハマっています。やはり、何の分野でも先達は大切ですね。わかりやすいところではたとえばこちらが良き師匠でした。
 さて、今日の新日曜美術館は「科学の目で見た国宝“伴大納言絵巻”」というタイトルでした。最新の映像技術で、今まで知られなかったこの絵巻の謎が解かれていきます。そしてまた、一方では新たな謎が…。
 もともとこの絵巻、検非違使ものでして、今風に言えば刑事ものかな。完全犯罪を狙った放火犯と辣腕検非違使?の行き詰まるかけひきを描いて、それはまるで極上のサスペンス映画を観るような緊張感に溢れています。しかし一方で、単に「伴大納言(伴善男)を犯人としてしょっぴきました」がテーマなのかどうか、また、不自然な貼り合わせ箇所があったり、謎の人物が描かれていたりと、なかなか一筋縄では行かないシロモノでもありました。
 今回、最新の光学的分析を行った結果、いろいろと新事実が浮かび上がってきまして、実は伴大納言は犯人ではなかった…なんてことはありませんが、おかげでいろいろと謎が解けた…かと思うと、これまたそういうわけではなく、ますます謎が深まってしまったようです。研究成果は数年後にまとめられるとのことですから、しばらく待ちましょうね。
 そういうダ・ヴィンチ・コードみたいなのは、それはそれで面白いのでしょうが、私にはそれより何より、この絵巻を描いた絵師の恐るべき才能に震撼させられました。今日の番組では、東京芸大の手塚雄二先生がベタ褒めしてました。世界的にもこんな画家はそうそういないと。日本絵画の歴史だけで見ても、突然このような天才が現れて、そしてその後もこれほどの者は現れなかったとまで。そこまで言うか!って感じだったんですが、現代の若き天才(だと思います)手塚先生がそうおっしゃるんですからね。本当にそうなんでしょう。
 たしかに、最新の分析によってわかった事実の一つ、「下書きなしでいきなり描いた」というのには、びっくりしました。絵巻物特有の「アニメーション感」は、もしかして計算ずくではないある種の即興性によって生まれたのかもしれませんね。書のように。
 いや、もともと日本の絵画は書と同様のものだったのかもしれない。紙と筆と色と意味と書き手とその場の「気」のコラボレーション。そういう一回性の「気合い」の中で、紙に時間も空間も物語も心も封じ込めてしまう。そういう作業なのかもしれません。絵画や書に限らず、芸術とはそういうものなのでしょう。
 ホントはテレビじゃダメなんですよね。実物を観てなんぼなんでしょうね。ああ、行きたいなあ。死ぬまでには必ず観るぞ!

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