『世間話の研究』 柳田国男〜「カタリ」と「ハナシ」
駿台の一橋大学模試の過去問を一通り解いたんですが、いろいろと面白い文章があって勉強になりました。一橋はけっこう古典的な名著から出題されるんですよね。最新のものは出ない。そのあたりが、生徒にとっては厳しいところとも言えます。しっかし、古くさいなあ。
とは言え、腐っても鯛。いやいや失礼、今でもけっこう活きのいい鯛もいっぱいいます。柳田国男なんか、読むたびに発見がありますね。そういう意味では、柳田文学なわけです。そういう名文を読まされると、なんとなく学問にとって幸せな時代っていつだったんだろう、なんて余計なことを考えてしまうのでした。やっぱり今の学術論文は読めない。
さて、気を取り直して、久々にこの名文を読んでみました。問題文は抜粋だったので、全集を引っ張り出してきました。
ふむふむ、15年ぶりくらいに読みましたが、なかなか興味深い。前読んだ時はほとんど通過するだけでしたけど、私も歳相応に多少は変ったってことでしょうか。
「カタリ」と「ハナシ」が対照されています。ハレにおけるカタリと、ケにおけるハナシ。なるほどこれは基本ですね。「カタリ」の方が古くて、「ハナシ」は新興勢力だと。つまり、昔は「ハナシ」なんかしなかった。無口だった。で、近頃その両者を混同することが多いということでしょうかね。しっかり区画せよと。
うん、確かに「話す」という言葉は比較的新しいんですよね。古語辞典に載ってないくらいですから。
では、今言うところの誰かと話をするというのをどう言ったかというと、これが「物語す」だったんですね。だから、古語辞典を繰ると、「物語」=「話すこと。話。世間話」なんて書いてある。私はそれがまずいって言っているわけです。柳田先生に援軍を願うと、とにかく昔は「話す」なんてことはなかったわけです。なんとなく話す(言葉を放す)のではなく、あくまで「情報伝達」であったわけです。ですから、私の解釈によると、「モノ(外部・未知・不随意)」を「カタル(コト化=内部化)」のが「物語」なのです。
「話す」とは「放す」でしょうね。口から言葉が放たれる。だから昔は「咄」という字を用いたのでしょう。あまり高級なイメージではありません。やはり日常(ケ)的行為だったのでしょう。その点、「語る」には何か重みがある。私は、両者の違いとは、まさに「コトタマ(言霊・事霊)」がそこに働いているかどうかだと考えています。ちなみに私の「コトタマ」観は一般とちょっと違っていまして、「実現・固成・随意のエネルギー」というものなんですけどね。
いずれにせよ、時代が下るにつれて、我々はおしゃべりになった。言葉をハレの舞台から引きずり下ろしてきて、日用品として使うようになった。それは確かなようです。
こんなふうに、ある意味無責任に「放される」言葉たち。私の戯れ言もまた、言葉の権威を奪うのに一役買っているというわけですか。凡人のしもべに堕してしまった言葉の反逆はいつ始まるのでしょうか。
あっそうそう、もちろん柳田先生は、どっちかというと「話す」派に立ってるんですよ。「ハナシ」に「カタリ」を混入させるな、みたいなこと書いてますので、勘違いされないように。でも先生、こうしてネット上で大量生産大量消費される言葉たちを見たら、今度はなんて言うでしょうね。
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投稿: e-アフィリ | 2006.09.09 11:26