「箱」と「ことば」
扇面貼交手筥
録画していた「新日曜美術館」を観ました。テーマは「箱」。アートの観点から「箱」の魅力を問い直した内容でした。それぞれの作品も楽しかったし、なにしろあらためて「箱」について考えるよい機会になりました。
箱は不思議な存在です。今、ウチの中を見回してみても、たしかにいろいろな箱がある。そして、その箱に対するいろいろな嗜好もある。たとえば、カミさん、昨日おみやげにいただいたお菓子の箱を「かわいい〜」と言って中身を出し、いろいろと眺めながら、さて何に使おうか、何を入れようか、どこに置こうか、など思案しています。ふと目を移すと、黒猫の兄は「箱座り」しているし、弟は段ボール箱の中で眠っている。子どもたちはまさにおもちゃ箱をひっくりかえしている真最中。私はこうしてパソコンというブラックボックスとにらめっこ。
番組では詩人さんが「流体を閉じこめるもの」として定義しておられました。それもありでしょう。では、牛乳パックは「箱」と呼べるのかとというと微妙な気もします。たしかにアートとしての箱は「時間」という流体を閉じこめる場合が多いようにも思いますけれど。記憶ももちろん時間です。
さて、ここで得意の「モノ・コト論」を私の頭の箱から取り出してきましょうか。流体とはまさに変化し続ける「モノ」。それを、固定しようとする行為が「コト化」です。いつも言うように、完全なる「コト」、つまり「マコト」とか「ミコト」というのは、実はこの世界には存在しないようなのですが、疑似的な「コト」はいくらでも存在します。それを私は「カタ」であると考えています。「形」とか「型」とかの「カタ」です。「コト」と「カタ」はもちろん同源ですね。で、「箱」は、やはり「カタヅケル」…今は「片付ける」と書きますけれど、「型付く」が語源と思われます…ためのものではないかと。
そうすると、「言葉」つまり「コトノハ」というのも、(疑似)コトの輪郭部分(山の端のように)という本来的な意味においては、「箱」と似ているとも言えるかもしれません。古来、「ことば」はレッテルだとか、分節の道具だとか、いろいろ言われてきましたが、私の実感だと「箱」に近いんですよね。
それで、そこに色々と分類して収納していく。似たモノを抽象してつっこんでいく。カタヅケていく。それぞれの言葉の音韻は、それぞれの箱の意匠(デザイン)なんです。で、入ってるモノにふさわしいデザインにするわけです。そこで働くのは、それを使う人たちにある程度共通なクオリアみたいなもの。カ行音は硬いとか、マ行音を柔らかいとか。
多面性という意味でも箱と言葉は似てますね。いろいろな角度から見ることができるし、いろいろな表情を読み取ることができる。また、箱のフタを開けて中身を見、ああこういう性質のモノが詰まってるのね、って確認するのは、まあ辞書で言葉の意味を調べて納得するようなものでしょう。
古語なんか、蔵から出てきた古い箱みたいなもんです。開けても最初は何だかわからない。また、時代とともに分類され直したり、捨てられたりするモノも出てくる。服の分類、収納みたいにね。
言葉を重ねて文を作るというのも、もしかすると箱を重ねていくようなものかもしれません。それぞれの箱のどの面をこっちに向けるかとか、重ね方のルールやコツとか。
ま、これは番組に刺激されて単に思いついたものなので、全然煮詰めてない考え方ですけれど、もう少し進めてみる価値はありそうです。今日は個人的な備忘ってことで。
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