『素晴らしい世界』 浅野いにお (小学館)
受験生が貸してくれました。受験生がこれ読むのって正しいのか?いや、正しいのかもしれない。
なんか、賛否両論なマンガらしいですけど、私はかなりいいなと思いました。ま、いつも言う通り、私はマンガ経験が希薄で、その語法やら何やらサパーリわかりませんので、マンガをマンガとしてとらえていないのかもしれません。
マンガ語法に詳しいカミさんによると、心理描写が甘い、無駄ゴマが多い、陥りがちなパターンだ、同人誌レベルだ、とか。よくわかりません。
たしかに、社会に取り込まれたくないと思っている種々の主人公の、何気ない日常や物憂い感覚が、淡々と描かれているだけで、ストーリーも特になく、オチも普通と言えば普通なのかもしれません。
でも、私にとっては、それこそが自分の何かと共鳴したという気がしました。何かって、何かなんですよね。まさに若かりし頃、特に大学生の時の、あのカッコいいようなカッコ悪いような、アンニュイな感じ。何かをしなければと焦燥すれど、なんとなく自分の能力の限界もわかっていて、また、社会の不条理や矛盾にかみつきつつ、それが実は自分の甘えであることにも気づいていた、そんな淀んだ心の風景。それが上手に描かれていたと思います。
つまり、カミさんの言を借りて言えば、心理描写すべき心理も実はなく、無駄に時間が過ぎてゆき、世間のみんなが実は陥っている穴の中に自分もいて、おまけに、当たり前だけど自分は天才じゃなかったと。だから、結局淡々だし、劇的なことも別になく、もちろんオチもない。こういう共通感覚を抽象してくれている作品なのではないでしょうか。
「漫画」の「漫」って「すずろなり」ってことです。「すずろなり」っていう古語は、「なんとなく心が動く。理由がない。思いがけない」っていう意味です。いつも書いている「もののあはれ」のライト・ヴァージョンみたいな感じの語感なんですよ。自分の意に反してものごとが進行する。と言うより、あんまり自分の意がないんですよね。ほんとに軽くなんとなくなんです。マンガってそういうものだったわけです。北斎漫画とかね。
そこにヘビーなものを乗っけちゃったのが、今どきの「マンガ」なんでしょう。これもいつも言ってますけど、そういうヘビーな「もののあはれ=意に反する切なさ」みたいなものは、文学の領域だったわけです。そこにマンガが侵食、いや浸食していった。まさに「マンガに人生を学んで何が悪い?」という状況になったのでした。
そういう意味では、この「素晴らしい世界」は、本来の「漫画」とも言えなくもない。ちょっとこじつけですけど。ただ、そこにヘビーな「学ぶべきもの」を求める人には、たしかに物足りないのかもしれない。読んで損したという感想もいくつか見かけましたけれど、そういう人たちは文学したいんでしょうね。
それにしても、「素晴らしい世界」というタイトル、秀逸ですね。いくら自分がダメ人間でも、また、世界がダメ人間の集合でも、それでもなんとかなっているというのは、たしかに素晴らしいことですから。
Amazon 素晴らしい世界
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コメント
こんにちは!
この漫画、読んだことはないですが、去年出版されたある本で、紹介されているのを見ました。
その本というのは、
『これは絶対面白い! 書店員が見つけたロングセラー』 太田出版営業部面白本探検隊[編] 太田出版
です。
ブックファースト渋谷店の店員さんが紹介しています。
ちなみに、『巨匠に教わる 絵画の見方』は、三省堂神田本店で、日に2冊平均で売れ続けているようです。
投稿: kobayashi | 2006.08.09 20:07
kobayashiさん、こんばんは。
このマンガは好き嫌いがわかれそうですね。
マンガに何を求めるかということでしょうか。
「巨匠に…」はホント面白い本ですよ。
目からウロコでした。
ああいう本が売れるのはいいことですね。
ま、いずれにせよ,田舎ではあんまり売れそうにないなあ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.08.09 20:34