« あ〜やっちゃった…かわいそうな亀田興毅 | トップページ | GENTOS 『ヘッドライト(白色LED&強力ゼノン球) XL-322』  »

2006.08.03

『「日本のうた」歌唱法』 藍川由美

B000ez89e001_pe10_ou09_scmzzzzzzz_v64895 父親が貸してくれました。これは面白いアプローチでありますが…。
 なぜ日本の歌を西洋の歌唱法で歌うのだ。日本語の歌にはそれにふさわしい歌唱法がある(あった)はずだ。というのが藍川さんの主張です。ごもっともです。そういう問題意識にもとづいて、藍川さんは主に表記・発音の面と、曲の変遷(異稿の存在)に注目して、「日本のうた」のあるべき姿に近づこうとしています。
 藍川さん、今までもコンサートや楽譜の出版、本の出版、CDの録音を通じて、その姿勢を貫いていらっしゃいました。その活動の集大成的なものが、このCDの内容と50ページに及ぶ解説書でしょう。
 で、先に言っておきますが、藍川さんの提唱するものはあくまでアイデアであって、学問的なものではありません。それを意識していないと、ちょっとトンデモ系になりかねない。あくまで御自身の経験に基づく「藍川流」歌唱法(発音法)です。
 たしかに日本の音楽においては、ある意味伝統が重んじられながら、西洋の原典主義のような研究作業はほとんどなされてこなかったと言っていいと思います。もちろん、研究対象になる資料が圧倒的に少ないという事情もあるのでしょうが、それ以上に演奏家の問題意識の低さに問題があります。たとえば、私のやっていた箏曲の世界でも、プロの方も含めてみんなナイロン弦を張ってバンバン弾いている。大きなホールで弾くことが多いので仕方ないとも思いますけど、やはり、江戸時代にどういう楽器でどういう声で演奏していたかを探求してみる必要はあると思います。絹糸自体手に入りにくいんですけどね。そういう人たちがいないので、誰も作らない。
 オリジナルに帰ることが、現代の私たちにとって最高のことであるとは言いません。このへんは、西洋古楽の世界でも大きな問題です。楽譜、楽器、奏法をオーセンティックにしたところで、弾き手も聴き手もモダン人ですからね。これを言っては野暮ですけれど、たとえば現代日本人が西洋古楽をまじめに演奏する価値や理由というものも、考えようによってはお笑い草になりかねないわけです。もちろん、私はそんなふうには思っていませんけどね。
 で、日本の歌曲、特に明治、大正、昭和の楽曲に対して、藍川さんのようなスタンスで臨むというのは悪いことではありません。ある意味非常に健康的で正常な精神と活動だと言えるでしょう。
 私は古楽をやったりしていて、オリジナル主義的な考え方も勉強してきましたし、また専門が日本語の音韻史だったりして、それから山田流の箏曲を習っていたので江戸時代の歌唱にも触れ、しまいにはそれをテーマに卒論書いたりしましたので、このへんについては総合的にちょいと詳しい方だと思います。
 それで、はっきり言ってしまうと、藍川さんの提唱するものは、決してオーセンティックなものではない。私の知る限りにおいても、実際の日本語の表記・発音の変遷と、藍川さんのアイデアとはズレがある。アイデアとしては秀逸なのかもしれませんが、それが「本当の」「本来の」であるとは言えません。いや、それがいけないと言っているわけではありませんよ。価値のあることです。しかし、ちょっとそのあたりのさじ加減、つまり、学問的なのか、思いつきなのか、そのへんの姿勢というか、立場というかが不明瞭なんです。
 だから、私は最初、なんだこりゃ?と思ってしまいました。西洋的オリジナル主義の視点から聴いて、読んでしまったものですから。で、よく考えてみたら、これは単なる提案であったと。どうもそのあたりがわかりにくいんですよ。文章もわかりにくいし。論文なのか、随筆なのか。
 ですから、ここに示されているのは、決して「本当の」とか「本来の」とかではありません。ご注意あれ。
 と、なんとかここまで譲って、そうして藍川さんを擁護しようと思ってきましたが、どうしても私が受け容れられないのは「発声法」です。
 解説に「日本語を西洋風に歌うのは滑稽です」と書いてあるんですが、私は藍川さんの歌にもそれを感じてしまいます。なぜなら、江戸時代以前の「日本のうた」における発声法とはあまりにかけ離れた「芸大式発声法(?)」バリバリなんですもの。発音以前の問題ではないかと思うのは私だけでしょうか。「発声と発音は表裏一体」ともお書きになっているんですが。全体に「発声」と「発音」がごっちゃになっている印象を与えます。う〜む、やっぱり文章のせいだよなあ。でも、そこは責められないか…。

Amazon 「日本のうた」歌唱法

不二草紙に戻る

|

« あ〜やっちゃった…かわいそうな亀田興毅 | トップページ | GENTOS 『ヘッドライト(白色LED&強力ゼノン球) XL-322』  »

文化・芸術」カテゴリの記事

文学・言語」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55913/11178432

この記事へのトラックバック一覧です: 『「日本のうた」歌唱法』 藍川由美:

« あ〜やっちゃった…かわいそうな亀田興毅 | トップページ | GENTOS 『ヘッドライト(白色LED&強力ゼノン球) XL-322』  »