小論文・モノ学・もののあはれ・量子論・ブッダ…いろいろと
『新小論文ノート2007』(代々木ゼミナール)
この本、受験生やその指導者しか買わないのでしょう。実にもったいないと思います。このシリーズ、毎年たいへんお世話になっております。
私も仕事柄、というか担当教科柄というか、人柄というか(?)、小論文の指導をいたします。皆さん、お察しのように、私に指導されるとかなり個性的なことになります。まあ、それが狙いですし、そういうものを書かなければならない生徒が私のところに集まるわけですから。
この本は、代ゼミの誇る代表的な小論文指導者の英知を結集したものです。ですから、その指導内容、解答例などは、もちろん私のそれとはあまりに違う、実に立派なものです。感心します(イヤミじゃないっすよ)。
で、へんちくりんな私がこの本から何を学ぶかと言いますと、やはり、まともな切り口とまともな意見なんですね。それは大変意味のあることです。ああ、みんなこういうふうに書くんだと。まずは敵を知らねば戦いはできませんね。
あとは、もちろん、いい文章を読む機会として有用です。現代文の問題もそうですけれど、とにかく日本の知の最先端の(と思われる)皆さんがどのような文章を出題するのか。高校生にどんな文を読ませようとしているのか。それを知るだけでもなかなか楽しい。そして、面白そうな文に出会ったら、それはだいたい抜粋なわけですから、実際の本を注文するわけです。そういう読書ガイドになる。
今年度(来年度?)版もなかなか興味深い文が多かった。どれも面白かった。一冊本を読むのはいやですが、このくらいだったら読む気がしますしね。
さて、その中で特に興味深く読んだのは、神戸市外国語大学で出題された汐見稔幸氏の文章です。2001年に岩波の「世界」に掲載された文章の抜粋のようです。
小見出しに「中間にとどまれない若者たち」「社会の効率化がもたらす危機」「『よい』『わるい』の二分法を超えて」とありますから、だいたいの内容は察しがつくことでしょう。
この文章、プロレスラーの大仁田厚さんの言葉から始まります。「今の若者には、なにかうまくいかない時に、全て人のせいにするやつか、全て自分のせいにするやつしかいない。前者はキレる。後者はひきこもる。中間がいない」というような内容です。それを受けて汐見さんが、アダルトチルドレンの特徴として「常に責任をとりすぎるか、責任をとらなさすぎるかである」と述べます。同じですね。中間がない。進歩か反動か、保守か革新か、科学か迷信か、勝者か敗者か、○か×か、勉強ができるかできないか、成功か失敗か、金持ちか貧乏か…多義的な、あるいは無意味な世界はどこへ行ってしまったのか。そうした中間世界に適応できない、あるいはそれを自分で意味化できない若者が増えている。だから…というような話しです。
私の「モノ・コト論」で言えば、まさに二分法は「コト」世界。中間世界は「モノ」世界ですね。たしかに現代は「コト」と「モノ」のバランスが崩れている。というか、いつかも書いた通り、人間の歴史、特に科学の歴史は「コト」化の歴史ですからね。時代が進めば「コト」化が進むのは、当然と言えば当然です。
転変し、何者でもなく何者にもなりうる、決して恒常でない、そういう「モノ」世界の復権を、私も願いたい。特に子どもたちには体験させないとね。いや、まず自分かな。
ようやく大人の世界でもモノ学が本格始動したようです。私も自分なりにそういうものに関わっていければと思っています。ただ、学問的に突き詰めると、結局「コト」化が進んでしまうんですよね。言葉で学問するわけですから。そこんとこをどうするか。「モノ」と「学」という相容れないものどうしを、どう折り合いつけるか。
でも、いくら学問しても、いくら「コト」化しても、「モノ」自体はそれで消えるわけではありません。「モノ」は人間が知ろうとすればするほど分からなくなるものであり、近づこうとすると遠ざかるものなんですよ。ふふふ。
学問、つまり、観測や観察や解釈をした途端に、対象がある一面しか見せなくなる…まるで量子論ですねえ。脳内で「コト」化された瞬間に、本当の(?)姿を隠してしまうんですよ。いや、「コト」化とは、「モノ」のある一面のみを抽出する行為なのか。とにかく、そういう、人間にとっての永遠不可知、不随意こそが「モノ」の本質です。だから、そこに諦観してため息ついちゃったのが「もののあはれ」なんですよ。ブッダはそこにいち早く気づいたということでしょう。ふふふ(不敵な笑み)。
Amazon 新小論文ノート2007
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