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2006.08.24

『ヒミズ 1〜4』 古谷実 (ヤンマガKC 講談社)

406336962509_scmzzzzzzz_ う〜ん、ディープだ。マニアックな女生徒が貸してくれました。たしかにマニアックだ。しかし、面白かった。
 古谷実と言えば「稲中」としか認識できない私であります。その「稲中」はウチのカミさんがバイブルとしており、私もそれをつまみ食いさせていただいていたので、なるほど天才的なギャグ漫画家だな、とは思っておりました。
 そしたら、これは全く作風が違った。でも、私としては、読中感や読後感は、両者ともほとんど同じでした。なんでだろう。どうも、多くの人の感覚だと、「暗い」「笑えない」「哲学的」…という具合らしい。私は、「暗い」と「哲学的」には同意しますが、「笑えない」には異議を唱えたい。けっこう笑えましたけど、何か?
 つまり、私にとっては、「稲中」も「ヒミズ」も、どちらも「暗くて哲学的で笑える」マンガなんですね。で、もう一つ言葉を加えるなら「優しさに安心」であります。変かな?
 たしかにストーリーは悲惨ですけれど、それでも生きてるたくましさ(おかしさ)や、それでも味方になってくれる人のいる救いがあるじゃないですか。
 主人公住田くんは「ヒミズ」です。「ヒミズ(日見ず)」とは小さなモグラのような生きもので、陽の光を浴びると死んでしまうんだそうです。そういう前提で(題名で)始まった物語ですから、彼が全然中学生じゃないとか、ラストも含めてありえないとか、リアリズムに欠けるとか、そういうことを言うのは実に野暮です。いわば鳥獣戯画であり、それこそがマンガの本質だと思うからです。まず、その点を確認しておきましょう。小説読んでるわけじゃないんで。
 たしかに全編にわたって「死」がドローン・バスのように響き渡っています。それが「暗さ」や「哲学」、「笑えなさ」につながっているも分かりますが、考えてみれば「死」はまさに我々のベースであって、少し冷静になれば、案外すんなり受け容れられるようにも思われます。ただ、彼らはそれを直視しすぎているから、私には「笑える」のです。おいおい、お前ら妙に真面目すぎないかって。
 「死」を意識すればこそ、「生」の意味に執着するのであって、それを突き詰めてしまうと、当然ながら「生きている意味がない」=「死」という結末しかなくなってしまう。もちろん「死」とは、古谷さんも語るように、「殺人」と「自殺」です。
 だから最初の住田(ヒミズ)は正しかった。「普通」を目指していたからです。ヒミズ的に言えば、一生を土の中で分相応に生きようと思っていたわけです。それが、ある時狂った。「父親殺し」という「死」を端緒に、自らの「死」を考えるようになり、そして悪人殺しという「死」に「生」の意味を見出そうとする。ヒミズは土の中で普通に暮らすことができなくなってしまった。
 その代償が面白い。最後、ヒミズは、普通の幸せという希望の光を浴びて死んでしまった。このラストが許せないという方、この物語の本質をよくお分かりでないのでは。
 普通を目指していたはずのヒミズは、それができないくなり、もっと土の中深く潜っていかなければならなくなった。しかし、住田ヒミズは、そこで究極の自殺行為に出たのです。そうだ、もしかすると土の上に出て、光を浴びても生きていけるかもしれない、それどころかそこは天国のように穏やかで幸せなのかもしれない…負の意味で普通ではなくなった彼は、ヒミズとしては許されない、しかしとても魅力的な普通でない妄想を抱いてしまったのでした。
 でも、きっと最後に陽の光を浴びたヒミズは、この上なく幸せなままなんでしょう。そんな気さえしました。そう、やはりこのマンガ、救いがあると思うんです。そして、クソまじめに「死」と格闘する彼らを、思いっきり笑い飛ばしていいような気がするんですね。いや、笑い飛ばさないと、ちょっときついっすよ、こっちも。「稲中」も実はそんな感じでしょ?
 鳥獣戯画なんです。だから、住田ヒミズらの生き様、死に様に、もちろん人間の生と死が投影されている。古谷さんのメッセージも、もちろんそこにあるわけですね。つまり、古谷さん、クソまじめに格闘してますけど、最後は自分自身をお救いになっているような気もします。そこも笑いどころだったりして。
 もちろん私と違う感想を持つ人の方が多いのでしょうが、つまらん小説を読むくらいなら、これを読んだ方がずっとましかと思います。帯には「笑いの時代は終わりました…これより、不道徳の時間を始めます。」って書いてありますけど、全然その逆ですね。笑いの時代は終わってないし、道徳の時間だし。ま、とにかくおススメですね。

Amazon ヒミズ 1

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コメント

面白い作品でした。"稲中"もそうでした、普通でも普通じゃなくても、愛すべき人たちがいっぱい。これは本当はヒューマンドラマだし、純愛モノなんじゃないかなあ、と思っちゃいました。暗いが何か温かい。ともかく、私おんなだけど、男子とはこうも生き下手なんだ・・・と痛感しました。女性(母・妻・恋人・娘・その他どんな立場であっても)の本当の使命って・・・てなことも考えさせられました。

投稿: ようこ | 2006.08.26 15:18

おっと珍しい、カミさんからコメントが。
たしかに愛に溢れた作品だよね。
男ってバカでしょ?
そこが可愛いんだと思うけどね。
女は強いよ。あんまり深く考えないのが最強だね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.08.27 07:32

なるほど

投稿: 名無しさん | 2012.08.04 19:10

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