『ダライ・ラマ 生命と経済を語る』 ダライ・ラマ ファビアン・ウァキ (角川書店)
中沢新一・鷲尾翠(訳)
これまた感動的な本でしたなあ。この前ちょっと仏教経済学という言葉を持ち出しました。実際にそういうのを研究したり、想定したりしている人もいらっしゃる。詳しいことはよくわかりませんが、理念として、利他や知足や慈悲や布施の精神が経済システムにどのように組み込まれるのか、いやそれ以前に、仕事や企業やお金の流通とブッダの教えは両立しうるのか、そこのところに興味があります。
それで、なんとなくですが、この本を読んでみました。ダライ・ラマの著書には、今までも大変多くのことを学んできましたし、いつものように慈愛に満ちた口調で語りかけてくれるだろうという甘えのような気持ちもありました。また、対談という私の大好きな形式、そして、その相手がフランスの大手百貨店の辣腕経営者だというのも興味をそそります。
これがですねえ、本当に感動してしまいました。当初の私の疑問に答える内容ではなかったのですが、それ以上に非常に励まされましたし、気持ちが前向きになりました。
もちろん経済に関する対話もありますよ。西洋的なお金観や仕事観、富裕観、資本主義経済にも、社会主義経済にもけっこう厳しい口調でダメ出ししています。そして、お金はある意味大切ですけれども、それとのつきあいには、やはり利他や慈悲の精神を持たねばならないとしています。マネーゲームは全く最低だ…と、そういう言い方ではありませんが、そういう気持ちはビンビン伝わってきます。
それにしても、ファビアン・ウァキという人、まだ若いようですが、こういう経営者もいるんですね。あらゆる宗教に造詣が深く、よく思索している。まあ、そうでなければ、猊下と対談するなんて無理でしょうし。結果ととしてこういう感動的な内容の本を作ってしまったわけですからね。特に仏教に対する純粋さ極まったアプローチの姿勢には感服いたしました。稲盛和夫さんレベルでしょうかね。
それで、その人がですねえ、本当にブッダの弟子がブッダに一生懸命たずねるように、ダライ・ラマに食らいついていくんです。おいおい、ちょっとそれは失礼じゃないか?あっ、それ訊いちゃう?みたいな感じで、こっちがドキドキしちゃう。
そう、それでその内容が経済だけじゃなくて、権力、政治、倫理、科学、性、教育、メディア、医療、福祉、そして生と死、心、奇跡と、まさに縦横無尽。しかし、それらが実によく結びついていて、一本のストーリーを紡いでいる。いやあ、なんか人生の全て(に対する智恵の一端かな)を学んだような気がしましたよ。おおげさでなく。
他の宗教者との対話とかではなく、こうしたいかにも俗世間でバリバリという感じの青年との対話というのがまた、リアルなダライ・ラマを演出しています。訳者の一人、中沢新一さんも「こんどのダライ・ラマは違う!」って言ってますが、まさにそう。なんとなく人間ダライ・ラマに接したような、でも全体としては、まさにブッダに近い人がここにいたという感じなんですよね。
ダライ・ラマの著書を読んで必ず感じる幸福感、それはたぶん母のような慈悲心に包まれた安心や希望であると思うのですが、それが今回は格別に大きかった。涙が出てしまいましたから。ブッダやイエスもそうだったと聞きますが、相手に合わせて上手に話すことができる人って魅力的ですね。
さて、本当にいろいろなことを学ぶことができた本でしたので、とにかく皆さんにも読んでいただきたいわけですけれど、ちょっとだけ個人的に心に残った言葉を引用して終わりたいと思います。
「健全な経済システムは、利他心と責任感の上に築かれていなければならない」
「利己主義のまま生きなさい、でも同時に他者のことを考えなさい」
「すべては自分で確かめなさい、何一つ盲信してはいけない」
(これらをいつ誰が言ったかは、この本でお確かめ下さい)
Amazon ダライ・ラマ 生命と経済を語る
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