『カチカチ山』 太宰治
今年もまた、桜桃忌がやってまいりました。太宰治の誕生日であり、遺体の上がった日であります。今年は桜桃忌を前にして、本当に残念でならないことが起きてしまいました。当地を舞台にした「富嶽百景」に登場するおかみさんのモデルである外川ヤエ子さんが、先日不慮の交通事故でお亡くなりになってしまいました。このような不幸がなければ、昨日天下茶屋においてお話をうかがうことができるはずだったのに…。ご冥福をお祈り申し上げます。
外川さんらの支えにより、第二の誕生を遂げた太宰、しばらくは比較的健康的な生活をしました。そして、溌剌とした作品を残しました。今日は、そんな中でも太宰節ベストチューンと言ってもよい作品を紹介いたしましょう。
戦中に書かれた「お伽草子」に含まれる「カチカチ山」です。この時期の作品としては、「富嶽百景」はもちろん、「女生徒」、「駆込み訴え」なども私好みの出来映えですし、軽めのエッセイとしては「畜犬談」も最高のセンスですね。そうそう、「走れメロス」については以前こんなこと書きまして物議を醸しちゃいましたっけ。なにしろこの頃の文章、スウィングしている。軽みの極致であります。心憎い限りですね。本当のことを言ってしまうと、私の文章の手習いのお手本は、この時期の太宰のそれらのみ。
そんな中でも、やはり地元を舞台としているいくつかの作品に、特別の思い入れを持ってしまいます。特にこの「カチカチ山」はたまりませんね。当地に伝わるあの「カチカチ山」の昔話を潤色し、37の醜男と16の処女の物語に仕立ててしまった。換骨奪胎の至芸です。エキサイティングかつ教訓に富む(?)内容はもちろんのこと、講談調のリズムも心地よい。おそらく口述したんでしょうね。美知子さん、記述しながら、「この人はやっぱり天才だわ…」と胸を高鳴らせたことでしょう。
未読の方々、ぜひこちらでお読みください。天才の仕事です。どうしようもない天才です。正直かなり嫉妬します。
この狸のモデルって、弟子の田中英光でしたっけ?たしかに「オリンポスの果実」読むと、実にいらいらする男ですよね。でもそれって積極性のなさであって、狸のようなずうずうしさではありません。なんか違うような気がするんですけど、本当のところはどうなんでしょう。そして、兎のモデルは?世の女性全てとか。美知子なんかどう思ったでしょうね。とにかく最高に面白い。読まずに死ねませんよ!
ちなみに舞台となった「船津の裏山」にある天上山ロープウェイは、何年か前に「カチカチ山ロープウェイ」と名称を変えました(笑)。「惚れたが悪いか」の石碑もあります。
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