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2006.06.22

方言「〜ちょ」など、いろいろと…

Fuji22300 予告通り、山梨県郡内地方の方言について書こうかな。ここ富士北麓はいろんな意味で境界線上なんです。地質的にも、生物的にも。それから人種もね。縄文vs弥生。武田と北条ってのもあったな。とにかく富士山を境にいろいろとあるんです。だいたい、関東なのか中部なのか。ちょっと行くと、60ヘルツ、NTT西日本だし。
 で、言語的にも面白いんです。左上の写真は、東条操さんの日本語方言区画図ですけれど、富士山のところ、微妙でしょ?関東、東海のボーダー上です。
 たとえば、関東方言の代表格「べえ」と中部方言の代表格「ずら」の両方を使う。意志、勧誘には「べえ」、推量には「ずら」です。甲府盆地の方に行くとまた違うし、富士山を東廻りに南下して相模の国に行っても、西廻りに南下して駿河の国に行っても全然違う。西と東が、北と南が富士山でせめぎあってる。まあ、たしかにいろんなプレートが地下でせめぎあって、あんなデッカイ山ができちゃったんですが…。
 まあそれはいいとして、こうした方言というのは大概古い言葉が残っているんですね。「べえ」はもちろん「べし」の連体形「べき」のイ音便「べい」ですし、平安時代の推量表現「むとすらむ」が「むずらむ」になって、その撥音便「んずらん」の「ん」が表記されない(発音されない)と「ずら」になります。
 あと面白いのは禁止の終助詞「〜ちょ」ですね。当地に来たばかりの頃はホントびっくりしました。というかさっぱり意味がわかりませんでした。「ワラッチョ」って言われて「笑ってチョーダイ」の意味だと思って笑ったら、生徒に「チョーヅイチョ」って怒られました。これって「笑うな」と「調子づくな」ってことなんですよ。つまり禁止です。
 ただ、これは禁止なんですが、ちょっと「〜な」と言うよりも軽めなんですね。それほどきつくない。「〜ちょし」と言うとさらに柔らかくなる。ニヤっとして言う感じなんですね。「〜するなよ(笑)」って感じかな。
 で、この語源はですねえ、なんと古文で必修の「な〜そ」なんですね。「な笑ひそ(笑うな、笑わないでくれ)」です。「な〜そ」は現代では、「勿来の関」の「なこそ」という地名くらいにしか残っていません。ただ、当地でもお年寄りが「(ン)な〜ちょ」と言っているのを聞いたことがあります。最初は「そんな」の「そ」脱落の「(ン)な」かと思ったのですが、もしかすると古形を残しているのかもしれません。ちなみに「そ」の発音ですが、都の方では、奈良時代は「チョ」平安時代は「ショ」に近かった可能性が指摘されおり、そうだとすると発音としても最も古い形で残っているということですね。びっくりです。「です」の幼児語が「でちゅ」だったり「でしゅ」だったりすることからも、そうした音韻の変遷は理解できるでしょう。
 「ちょ」の用法で面白いのは、「やっちょばよかった」のような言い方です。これは「やらなければよかった」ということです。似た感じの表現「しろばいいじゃん」が、「する」の命令形「しろ」に接続助詞の「ば」が付いて、仮定条件に命令的ニュアンスが加わった意味になっているのと同様、「やっちょば」には反実の仮定に禁止の意味が加味されているように思われます。自らの過去の行動を後悔、反省して、過去の自分に「そんなことしたらダメだったら〜」って言ってるわけです。もろちん「やっちょばいいのに」なんていうふうにも使えます。
 当地の方言はもちろんもっともっとあります。名詞や形容詞などを挙げればキリがありませんので、今日は付属語の中でも基本的なものを紹介しました。

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コメント

おはようございます。九州出身の私としては方言は本当にすばらしい物と上京し感じております。
我が長崎では「すごく」は「ばり」と言い、(例)「すごく雨がふっている」は、変換後→ばり雨の降っとるばい。など特にきれいな女性が九州弁を話していると「キュン」となる30歳の私です。

投稿: もりやま | 2006.06.23 09:00

もりやまさん、長崎ご出身ですか。
いいですねえ。
私は東京で育ってしまったもので、母語を持っておりません。
さびしい限りです。
両親のふるさと静岡弁もしゃべれませんし、もう四半世紀くらい住んでいるここ山梨の言葉もしゃべれません。
カミさんは、秋田の山奥の出身でして、実に豊かで魅力的な秋田弁を話せます(全然わかりませんが…笑)。
うらやましいですよ。ほんとに。
そう、その土地の女性の方言に「キュン」となるというのは、実によくわかります!
そうそう「ばり」は今や標準語化しましたね。
生徒達も時々使っていますよ。
ただ、very muchの副詞ははやりすたりが早いので、
今後はどうなるかわかりませんが。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.06.23 11:03

こんにちは!
ちょっと記憶があやふやなんですが、「チョーヅイチョ」を見て思い出したことがあります。
「チョーヅク」以外に、「ちょーたれる」、「おちょったれる」、というのがありました。
子どもの頃使ったおぼえがあるんですが、多分、「調子づく」という意味だったと思います。
ただ、その場合は、「~ちょ」よりも、「~な」を使う方が多かったと思います。

投稿: kobayashi | 2006.06.23 20:45

kobayashiさん、おはようございます。
昨夜は接心でした。
なるほど〜、「たれる」は「こく」と一緒でしょうね。
つまり「調子こく」の意味かな?
「〜ちょ」より「〜な」を使うということは、語調が強いんでしょうね。
「〜ちょ」は柔らかい禁止、ちょっと懇願ぽいので。
面白いですねえ。
ほかにもあったらいろいろと教えて下さい。
分析はまかせてください(笑)。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.06.24 09:27

初めまして、卒業論文で「ちょば」をテーマに扱おうと考えている大学生です。
そこでちょっと伺いたいのですが、「(ン)な〜ちょ」を聞いたのはどこの市町村だったか覚えていたら教えていただけませんか?

投稿: なぎ | 2006.07.06 02:07

なぎさん、コメントありがとうこざいました。
卒論で「ちょば」を扱うとのこと。すばらしいですね。
ぜひ完成したおりには読ませて下さい!
さて、「な〜ちょ」ですが、私が聞いたのは富士吉田市だったと思います。
明見地区だったような…。
また、記憶がさだかではありませんが、長野県のどこかでは、「な〜しょ」を使うと聞いたことがあります。
はっきりせずすみません。
また何かありましたらいつでもどうぞ。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.07.06 05:43

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