『ふと心おとりとかするものは(枕草子より)』 清少納言
今日は長いっすよ。でも面白いと思います。一昨日、昨日と「言葉の乱れ」問題と方言の話題を書きました。こうなると、こちらのご意見番に登場してもらうしかないっすね。清少納言さんで〜す。はい、どうぞこちらへ。
「どうも、清少納言です。ここ数日の不二草紙さんでの話題のことなんですが、私が1000年ほど前に枕草子で意見させてもらってますんで、そちらをぜひお読みいただきたい。ただですねえ、私が書いたこの文、どうも曲解されてまして、私の真意が伝わっていないんですよ。ですから、今日は私が絶対の信頼をおいている蘊恥庵庵主さんに、平成日本語に訳してもらいました。これでやっと私の言いたかったことがお解りいただけます。うれしいかぎりです」
というわけで、ご指名賜りましたので、不遜にもワタクシめが訳させていただきます。たしかに世に通用している訳はひどい。私は今までも、こちらやこちらやこちらで、清少納言さんの真意を伝えさせていただきましたが(ちなみに紀貫之さんの真意はこちら、紫式部さんの真意はこちら)、どういうわけなんでしょうねえ。現代日本の先生方はどうも権威に弱いのか、批判精神が欠如しているというか、いやそれ以前に自分で解釈するということを怠っている。辞書や注釈書を鵜呑みにすることほどつまらんことはないと思うのですが。え?そんなヒマない?。そうか、そりゃ失礼。ヒマですみません。
人のことはさておいて、さっそく真意訳(?)をしてみましょう。原文は読む人もそんなにいないでしょうから、最後に載せますね。
急に「萎え〜」とかなっちゃうのはねえ…男でも女でも、言葉の発音を下品に使ってるのは宇宙一キモい。発音一つで不思議と庶民にもセレブにもなるのはどういうわけ?て言っても、こう思うワタシ自身、特にセレブってわけじゃないけどさあ。だから、どれがいいとか悪いとか言えた立場じゃないけどね。それでも、人はどう思うか知らないけど、ワタシはそう思うってわけ。
品がない言葉も、汚い言葉も、わかっててわざと言ってるのは、悪くないんだよね。自分で勝手に考えた言葉を遠慮なく言ってるのは信じらんない!それから、どう考えても庶民じゃないジジイとかオヤジとかが、意識的に媚び売って品なくしゃべってるのは、うざい。まちがった言葉とか下品な言葉とかも、立派な大人が平気で言ってるのを、若い人たちは、実は「めっちゃ痛い」って思いながら聞いてやってるっていうけど、たしかにそうだよ。
何を言っても、「そのことさせむとす」「いはむとす」「なにとせむとす」っていう時の「と」の音を抜いちゃって、ただ「いはむずる」「里へ出でむずる」なんて言うと、もうそれだけでめっちゃキモい。ましてや、メールに書いてあったりすると、もう完全に萎え〜。小説なんかでもさあ、センスない書き方しちゃってたりすると、もうサイテーで、その作家の人まで、可哀相になっちゃうよ。「ひてつくるまに」って言った人もいたっけな。「もとむ」っていうのを、「みとむ」なんていうのは、みんな言うみたい。
どうですか?清少納言さん、いいこと、するどいこと言ってますよね。言葉の乱れは大人の責任です。実は若者は眉をひそめているのです。それも本来美しい日本語を使うべき人たちが悪い。これは田舎に住んでいると毎日のように感じることです。親や先生のことですよ。なんて、そういうワタシも上みたいな媚びた文章書いてますけど。まあ、逆説的な論法ということで…(自分には甘い)。
この段の一般的な解釈の間違いは、「文字」という語を「ことば」一般としてしまっているところから始まります。ここでの「文字」は文字で表されるところの「音韻」ですよ。訳ではわかりやすく発音としましたけどね。だって、その証拠に3段落目でそういう例を出してるじゃないですか。そこにちゃんと「文字」っていう単語が出てきてるでしょうに、まったく。
で、挿入された2段落目が面白い。ここは言葉一般の話なんです。それが実は主題。「うざい」も「むかつく」も空気を読んでわざと使うのはいいんです。私も一昨日そう書きましたね。で、大人はそのへんわかってないと。わかってないどころか、空気読まないで無理に使おうとする。たしかに「かたはらいたし(傍にいて痛い!)」だ。ジジイやオヤジ批判なんですよ、この段。
だから、3段落目ももちろん大人の話なんです。それなのに、無責任に「平安時代にも若者の言葉が乱れていて、それに清少納言が苦言を呈した」なんて言っちゃう立派な大人がいるから困るんです。まったくう。
ちなみに清少納言が指摘している「むずる」ですけど、これが昨日書いた方言の「ずら」や「(意志・勧誘の)ず」…甲府の方でも使いますね、また、こちらにもちょっと書きましたが、静岡でも使っていたようです…などにつながっていきます。平安のオヤジ語が現代においてもオヤジたちに継承されているわけです。
というわけで、清少納言さん、こんな感じでどうでしょう?えっ?それこそ調子に乗るなって?オヤジのくせに?
「いといみじううし、にくし、むつかし、かたはらいたし、あさまし」(めっさチョーきもい、うざい、むかつく、痛い、信じらんない)
ですって。わかりましたよ。では、あなたの書いた原文を下に載せておきましょう。まあ、誰も読まないと思いますけどね。
ふと心おとりとするものは男も女もことばの文字いやしう使ひたるこそ、よろづのことよりもまさりてわろけれ。ただ文字一つにあやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ。さるはかう思ふ人、ことにすぐれてもあらじかし。いづれをよしあしと知るにかは。されど、人をば知らじ、ただ心地にさおぼゆるなり。
いやしき言もわろき言も、さと知りながら、ことさらにいひたるは、あしうもあらず。わがもてつけたるを、つつみなくいひたるは、あさましきわざなり。また、さもあるまじき老いたる人、男などの、わざとつくろひひなびたるは、にくし。まさなき言もあやしき言も、大人なるはまのもなくいひたるを、若き人はいみじうかたはらいたきことに聞き入りたるこそ、さるべきことなれ。
なにごとをいひても、「そのことさせむとす」「いはむとす」「なにとせむとす」といふ「と」文字を失ひて、ただ「いはむずる」「里へ出でむずる」などいへば、やがていとわろし。まいて、文に書いては、いふべきにもあらず。物語りなどこそ、あしう書きなしつれば、いふかひなく、作り人さへいとほしけれ。「ひてつくるまに」といひし人もありき。「もとむ」というふことを、「みとむ」なんどは、みないふめり。
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コメント
いつも楽しく拝見しております。
この場を借りてお礼を申し上げたく、書き込みさせていただきます。
4月の下旬に紹介のあった、ジャコ・パストリアスの「ライブ・イン・イタリー」が、約2ヶ月かかって昨日、アマゾンより届きました。
素晴らしい!の一言です。
貴ブログでは、以前からエイモス・リー等、素敵なアーティストを教えていただいたりして、私にとって大変重要な「お役立サイト」になっております。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
どこへ書き込みしたらいいのやらわかりませんでしたので、こんなところへ書いてしまいました。
不適切であれば削除して下すって結構です。
投稿: toshi5608jp | 2006.06.25 02:41
toshi5608jpさん、コメントありがとうございます。
不適切だなんて、とんでもない。
ありがたいお言葉です。
本当にブログのおかげでいろいろなご縁が生まれ、
感動を共有できるわけでして、なんか不思議な感じさえします。
ライブ・イン・イタリーも元はといえば、陋劣慙愧さんが紹介してくれたものです。
私にとっても実に感動的な出会いでした。
私は毎日勝手なおススメをしておりますが、そのうちのほんの少しでも皆様のお役に立てれば、
早起きして書いている甲斐があるというものです、ハイ。
こちらこそ今後ともよろしくお願いします。
また、何かtoshi5608jpさんのおススメがありましたら、ないしょで教えて下さい。
ネタさがしけっこう大変なんで(笑)。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.06.25 07:12