『丁子屋』(とろろ汁)
けんくわする 夫婦は口をとがらして 鳶とろろにすべりこそすれ
十返舎一九の「東海道中膝栗毛」の丸子の宿にある狂歌です。今日はその舞台であるとろろ汁屋さん「丁子屋」に行ってまいりました。私の故郷ということもありまして、もう何回も足を運んでおります。
十返舎一九は憧れの人ですね。多芸なエンターテイナーとしても尊敬しますが、なんといってもそのユーモアにしびれちゃいます。たとえばこの「東海道中」に限らず、膝栗毛物の楽しさたるや、もうやはり日本のマンガ的笑いの原点と申しましょうか、くだらなさ、ナンセンスさを競い合う江戸時代の最高傑作シリーズですね。
東海道編なんかはかなりメジャーでしたから、比較的抑制がきいています(あれでもね)。現在の私の地元にまつわる「甲州道中記」なんか、もうもう下ネタ満載で、教材にするのも躊躇します(って教材にしてるのかよ!)。
そう言えば、意外に知られてないんですが、一九って駿河の生まれなんですよね。あんまり故郷に執着していないのは、私と同じようですが。とにかく駿河が生んだ数少ない天才の一人でしょう(失礼)。文学、音楽、絵画…なんでもこなしました。いかにも静岡人らしい楽天さ加減もいいですね。有名な辞世の句「この世をば どりゃお暇(いとま)に 線香の 煙とともに 灰(はい)左様なら」が全てを物語ってます。かっこいい!
さて、そんな一九によって夫婦げんかをさせられた丁子屋さんでありますが、現在は当時よりもかなり大規模になって営業中。しかし、なんとなく江戸の風情も残しており、その味の良さとともに、時々行きたくなるお店です。
出てくる料理はいったてシンプル。特製のダシの効いたとろろを麦飯にぶっかけて喰う。いわゆる麦とろご飯。つまり江戸時代そのままです。それに、駿河湾の海の幸、たたみいわしやら刺し身やらを加えて、ちょっと贅沢しましょう。けっこうお金がかかりますが、こうしたシンプル至極、材料勝負の料理に大枚をはたくというのもまた、江戸っぽい嗜み。
いつ行っても店内はお客さんでいっぱい。たくさんの店員さんたち(おばちゃん中心〉も忙しそうにかけずりまわってます。でも、さすがに、まだ一度も主人とおかみがケンカしてるのは見たことありませんね。ちなみに弥次さん喜多さんは、ケンカに巻き込まれて、結局とろろは食べずじまいでした。
そういえば、膝栗毛のこのシーンでは、主人が「(もうすぐ)出来ます」という意味で「出来ず」と言い、江戸っ子の二人はそれを「出来ない」の意味だと解してしまいます。「〜ず」が近未来や意志を表すのは、今でもナヤシ(長野・山梨・静岡」方言に残ってますね。古文で習う「むず(んず)」の残った形でしょう。ついでに「〜ずら」は「むずらむ」です。
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