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2006.05.07

『ユダの福音書を追え』 ハーバート・クロスニー (日経ナショナル ジオグラフィック社/日経BP出版センター)

493145060101_ou09_pe0_scmzzzzzzz_ 『ユダの福音書』、ついに出ましたね。正直かな〜り萌えです。なんて、不謹慎でしょうか。
 ユダの裏切りはイエスの指示だった、というのは実に説得力があります。新興宗教の教祖の戦略としては充分ありえますね。受難、法難が教勢拡大の礎石になることは、洋の東西を問わずかなり普通のことです。よくあるシナリオってことですね。
 だいたい正統福音書の記述は不自然です。イエスはユダの裏切りを予覚しておきながら、それを甘受します。そこにイエスの意志を見た人はたくさんいるでしょう。自分はまだしもユダさえも救っていないわけですからね。救世主としてはその時点で失格です(笑)。それでは納得いきません、私も。だから、このユダの福音書による記述に、私もクリスチャンもユダヤ人もイエス自身も、そしてもちろんユダも救われるわけですから、ちっとも悪いことはないと思うんですけど。
 さて、その受難がイエスの意志だとして、肉体を滅して精神の解放を図るというのは、やっぱり仏教臭いですねえ。いつかも書きましたけれど、イエスが仏教に触れていた可能性は非常に高いわけです。随所に現れる慈悲の笑みに満ちたイエス像も含めて、今回はそれをさらに強く感じさせる内容になっています。実に興味深い。グノーシス主義と仏教との類似性は以前から指摘されてますしね。
 あと、復活を事実としてではなく象徴として扱うグノーシスの立場にも好感を持ちます。ユダの福音書にも復活は記録されていません。正統における復活劇は、ある意味肉体の復活であるわけでして、それは還俗ってことになっちゃいますよね(ちょっと違うか)。
 もともとこうしたたぐいの文書に弱いワタクシであります。定説がひっくりかえる、という意味よりも、差別的扱いを受けてきた「悪者」や「弱者」や「敗者」が突如として英雄になる、というパターンが好きなんですね。それがなぜかはわかりません。自分にそういう血が流れているのかもしれません。
 それらは大概トンデモ本と言われる。私の愛読書?「富士古文献(宮下文書)」や「霊界物語」なんかもそうです。後醍醐天皇に愛想を尽かして失踪したと言われる藤原藤房が、実は全国で暗躍して南朝の興隆に尽力したとか、鬼門に幽閉された国常立大神が復権するとか。正統からするとたしかにトンデモですね。この「ユダの福音書」もト扱いされるんでしょうね。世の中とはそういうものです。
 外伝、外典、偽書、異端の書。これらを作り出すのは政治的な力です。書物として残す方も、またそれにレッテルを貼る方も、どちらも政治的な意図に基づいて行動します。ですから、今回もその両方の政治的立場を考えねばなりませんね。正典の制定を急がざるを得なかった初期キリスト教教父たちと、キリスト教にすり寄ってまで自らの教義を広めようとしたグノーシス主義者たち。 
 ちなみに今日紹介したこの本は、『ユダの福音書』の内容にはそれほど深く立ち入っていません。あくまで、「〜を追え」であって、この文書の発見と研究の数奇な過程を長々と記したものです。そういう意味でがっかりする読者も多いことでしょう。しかし、下のリンクにある英訳を見てもわかる通り、その福音書自体、そんなに量が豊かなわけではありません。ですから、まあ、書籍としてはこういう企画に走ってしまうといのも仕方ありませんね。
 来月には内容を吟味した本が出るようです。いずれにせよ、神学的、書誌学的、世界史的、聖書学的な考証はこれから何年もかけて行なうべきでしょう。そして、いつのまにか、トンデモ本のレッテルを貼られるんでしょうね。そんな過程を私も楽しんでいきたいと思います。

National Geographic Translation(英訳)

Amazon ユダの福音書を追え

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コメント

「駆け込み訴え」以来のファンです。湯田さんの2千年冤罪が晴れることを望みます。ゾクゾクしますねえこの手のお話。オチはどうなるんでしょうか。

投稿: 散人 | 2006.05.17 00:52

そうなんですよね〜。
提婆達多を憎めないのといっしょですよ。
こういう話って萌えますよね!
ユダは生きていて甲府市湯田に来ていた!とか…。
キリストはその頃青森で修業中とか…(笑)

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.05.17 07:53

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