『「感動」禁止! 「涙」を消費する人びと』 八柏龍紀 (ベスト新書)
刺激的なタイトル…ではありますが…。
いや、たしかに感動しませんでしたから、看板通りでありました(笑)。
大量消費社会の虚無感が安易な感動への衝動を生む、ってことですか?感動も商品化して消費されていると。あまりに当たり前な仮説で感心すらしません。
この本のほとんどのページは、大量消費社会史の概説にあてられています。その時々の出来事や象徴的人物の紹介をまじえて、とうとうと延々と述べられています。まるで日本史か現代社会の資料集を読んでいるような感じ。筆者の私見もたしかに書かれていますが、そのほとんどは最初に結論ありきの恣意的批判ばかりで、途中でこちらの気分が悪くなってきます。
いやいや、これはたぶん私に責任があるんですよ。あまりに当たり前だと思ったのは、きっと私の知識が豊富だからでしょう(笑)。また、気分が悪くなったのは、自分の生きてきた時代への愛着や誇りが、バカみたいに強いからでしょう(笑)。ですからここに述べることは、あくまで異常な私の感じ方であって、誰かがこの本に感動することを禁止する性質のものではありませんのであしからず。
ま、筆者の言いたいことはよくわかります。安易な感動はよせや、ってことでしょう。つまり私が言う「萌え=をかし」はダメだということですね。時間を微分して、無常的性質を無視して、固定的に感動する。ファーストフードやコンビニ的に購入、消費、廃棄するか、お気に入りだけは技術力(デジタル)や経済力(マネー)によって自己の元に取っておく(たとえばDVDやフィギュア)。そういう感動の享受の仕方はやめよう、ってことですよね。正しいと思います。やっぱり「もののあはれ」じゃないとね。
でもなあ、なんというか、それこそインスタントな結論と筋道なんですよ。深みがない。ものごとを批判的にとらえて不快感を表明するのはいいのですが、あまりに一方的で、その理由や対案なんかはほとんど述べられていません。結論にしてもそうです。安易な感動ではない本当の?感動とは何なのかへの言及が物足りない。そこが一番肝心だと思うんですけどね。あまりに当たり前なんです。そこに感動したかったのになあ。
あと、安易な感動の例として挙げられているもの、オリンピック、サッカー、韓流、2ちゃんねるなどに対する批判もあまりに表層的でして、それらにそこそこ感動してしまった私には、それこそ自己否定されてしまったような不快感しか感じられませんでした。「電車男」なんか私に深い感動を与えてくれましたがね。いつかも書きましたが、「萌え=をかし」も積分されると「もののあはれ=深い感動」になるんですよ。日本文化史に名を残すあれもこれも皆、その当時は「萌え=をかし」の対象として消費されていたんです。
とにかく、このタイトルはいけませんね。禁止!は過激です。売るためとはいえダメですよ。結局「非感動」をすら商品として消費させようとしてるじゃありませんか。そういう意味でも自己矛盾に陥ってます。だいたい勝手に禁止しないでくださいよ〜!禁止されちゃったらこのブログ死にます。毎日のいろんなレベルでの「感動」をおススメしてますので(笑)。
浅くても深くても感動するのは悪いことじゃないっすよ。何事にも無感動で懐疑的で批判的な人生よりは楽しいと思います。たしかにあまりに躍らされるのはよくない。でも躍らされた虚しさに気づくこともまた、人生を豊かにするきっかけになったりします。それが年輪を重ねてのちの「本当の感動」につながったりするから、生きるということは面白いのでした。
Amazon 「感動」禁止!
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コメント
勝手にトラックバックさせていただいたにも関わらず、当方にコメントまでくださいましてありがとうございました。
プロフィールを拝見したところ私より先輩とのことで恐縮しております。(私ももうすぐ不惑を迎えますが・・・)ネットではどなたにでも気軽に声をかけられるのが、いいところでもあるし悪いところでもあるかなと思っております・・・
これからもサイト拝見させて頂きます。
投稿: tanabeebanat | 2006.04.24 21:11
tanabeebanatさん、どうもです。
いやいや、私の駄文を紹介してくださいまして、ありがとうございました。
ネットでは年齢のことは関係ないっすよ。
四捨五入でいきましょう。
私もそちらにうかがわせていただきますよ。
では。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.04.25 07:36
「感動」禁止!がここまで取り上げられてるのは私としては意外でした。
まぁ批判的な感想のようですが・・・。
初めに断りを入れておきますが、
私はこの本を読んだ事がありません。
私自身が根っから涙もろくて、何に対してもすぐ感動を覚える質(まさに八柏氏曰く涙消費の現代人)なので、
きっと共感出来る所が殆ど無いんじゃないかと何となく敬遠気味です。
ただ、某予備校で八柏先生に日本史の授業を受け持って頂いているという個人的に面識ある方なので、
凄く尊敬はしています。
あの人の知識は本当に感服してしまいますよ。
学生時代全く日本史に関わりが無かったのにも関わらず、
学者顔負けの歴史に対するキレの良さには頭が上がりません。
一応作家を目指して国文科を出、世に本を出すようになったのに、
日本史講師としての評価が高いなどとは可笑しな話ですね。
何だか一人で納得したようなコメントで申し訳ありません。(苦笑)
投稿: 受験生 | 2006.05.18 00:04
受験生さん、コメントありがとうごさいました。
そうでしたか、八柏さんに日本史を習っておられるんですね。
私は面識もなにもありませんので、ずいぶんと辛口なことを書いてしまいました。
ごめんなさい、と伝えておいて下さい(笑)。
でも、私の書いたことも、先生同様自分の実感です。
より無責任でしょうし。
ただ、ここはブログというメディアです。
それこそ適当に消費されて廃棄されてもいいメディアです。
書籍としてお金を取るのとは、ちょっと違うんですよね。
まあ、そういう意味での辛口でした。お金払ったんで。
八柏さんの知識は確かだと思います。
それこそ受験知識だけでなく、人生の切り口の一つを学ぶには、素晴らしい先生だと思いますよ。
勉強がんばってください!
ちなみに国語で何かありましたら私に聞いて下さいね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.05.18 05:20