『日本文化論の系譜』 大久保喬樹 (中公新書)
いい本ですねえ。サブタイトルは、『武士道』から『「甘え」の構造』まで、です。私のような面倒くさがりやにはたまらない逸本です。
例の「国家の品格」、まだよく売れているようで、こちらのブログでもしぶとく人気記事トップを守ってます。そろそろ半年なんですけど。
その「国家の品格」の中でも援用されていた新渡戸稲造の「武士道」、これも読まなきゃ始まらない、と思いつつ、はっきり言って面倒くさい。だいたいもともとは英語ですしね。そしたらこんな本を見つけた。たとえばその「武士道」が、実にコンパクトに要約されている。うん、GJ!大久保さん。ありがたや。
で、実は「武士道」のみならず、こんな名著たちも見事に要約、解説されてるんです。感涙。
志賀重昂『日本風景論』
新渡戸稲造『武士道』
岡倉天心『茶の本』
柳田国男『遠野物語』『山の人生』
折口信夫『古代研究』
柳宗悦『雑器の美』『美の法門』
西田幾多郎『善の研究』
和辻哲郎『風土』
九鬼周造『「いき」の構造』
谷崎潤一郎『陰翳礼讃』
川端康成『美しい日本の私』
坂口安吾『日本文化私観』『堕落論』
岡本太郎『縄文土器−民族の生命力』
丸山真男『日本の思想』
土居健郎『「甘え」の構造』
はっきり言って基本文献ばかりです。しかし、私がまともに全部読んだのは…3冊だけorz。
最近「萌え」だ「をかし」だ「もののあはれ」だなどとほざいてるくせに、困ったものです。たぶん放っといたら一生そのままでしょう。困ったものです。もちろん、国語の先生としても読んで当然の基本文献ですよねえ。なのに…。
で、そんな窮状を(とりあえず)救う、神のような本がこの「日本文化論の系譜」なんですよ。ホント助かった。みなさんすみません。これを読んで、上記全てを読破したことにさせてください。老後にヒマがあったら、いくつか読んでみますが。
なにしろ要約がうまい(たぶん)。それぞれを完全に理解された上にそのエッセンスをまとめ、さらに非常に客観的に解説されている(おそらく)。私のような者には大変安心して読めました。文章も端正で、構成も明確。全体を読むと、確かに日本文化論の系譜が手に取るようにわかる。いいですねえ。「○○史」とかいうと大概つまらんのですが、こういう講義だったら聴いてみたいなあ、と思いました。
で、私が感じ取った「日本文化論」ですが、これもまあ当たり前の感想かもしれませんね、とにかく「西洋近代」との格闘であったと。いずれの日本文化論も、結局「西洋」というフィルターを通してのものだった。西洋に寄り添ったものもあれば、正面から対抗したものもあった。まあ、これも手垢にまみれた表現ですけど、「他者を意識した上の自我」なんですね。
ただ、ちょっと新しい感慨としては、こんなのもありました。自分の「モノ・コト論」にこじつけて。「西洋近代」を象徴する「コト化(固定化・記号化・計量化・思念化)」に憧れようと対抗しようと、とにかく「日本文化論」を構築してしまったということに関しては、完全に「コト化」行為であった。新しい日本を見つけることは、結局今までの日本を見つめ直すことではなく、新大陸発見に近い行為であったような気がします。ディスカバー・ジャパン。その結果、皮肉なことに、本来の日本文化の「モノ」的な流動性、あるいはダイナミズムというものが、失われてしまったような…なぜか寂しさを感じましたね。
そんな中で、やはりちょっと「モノノケ」風だったのは、やはり、折口信夫と岡本太郎でしょうか。なんとなく自分はそっちが好きだなあ。そんなことも確認。
Amazon 日本文化論の系譜
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