『セブン』 デヴィッド・フィンチャー監督作品
今日のニュースにもあった『ユダの福音書』。トンデモ本愛好者としては、たまりませんね。ついに出たという感じです。MacでWindowsって感じですか?(わけわからん)私なんか変わり者ですからね、どうもユダに同情してしまうんですよ。聖書があまりにひどい物言いなんで。
私のみならず多くの人が、ユダなくしてキリスト教なし、と思っていますし、「裏切りはイエスの指示」というのは、キリスト教がけっこう過激な新興宗教であったという事情を冷静に認めれば、凡人にも想像できるレベルの戦略でしょう。だいたいその方が、純粋なるクリスチャンの方々は救われる。人を憎まなくてよくなるわけですから。
でも、それを認めちゃうと、今度は他の福音書を残したあの方たちの罪をどうとらえれば良いか、という問題にぶちあたるわけで…。
で、これについて語り(騙り?)出すとキリがないので、今日はやめときます。ただ、関連でこちらを久々に鑑賞。キリスト教における「悪」とはなんぞや。「罪」とはなんぞや。
う〜む、やっぱり名作でした。完璧。オープニングからしてすごすぎ。脚本、演出、演技…動かしようがない。そのメッセージは、観た者を磔刑に処します。こちらも動けない。
おそらく人類の創作した物語の中で、最も後味の悪いものの一つでしょう。後味が悪いということは、それだけ問題を残して終わるということです。
実際に劇中で使われていますが、どうもこの最悪なストーリーの映画を観るたびに、バッハの音楽が思い起こされるんですよね。なんというか、冷徹な美しさというか、こちらの意思を超えたところでの、避けようのない物語性というか。残念だが動かしようがない真実というか。バッハってけっこう残酷なんです。
そう、この映画のあの想像も出来ないほど最悪な結末のあと、私の耳はエンディングのロック・ミュージックを聞きながら、しかし私の脳内では、あのバッハの(G線上の)アリアがゆったりと、しかし冷たく響き渡っているのでした。
もうご存知の方も多いと思いますが、この映画はキリスト教における「七つの大罪」をモチーフにした殺人事件を軸に展開するサスペンスです。ただ、よく間違った解釈をされている映画でもあります。七つの罪=七つの殺人、ではないと思いますよ。よく、エンディングが途中で分かってしまった、という発言を耳にしますが、それはおそらく正しい認識による予知ではないと思います。
妻のトレイシーと胎内の子どもの死は、罪(嫉妬)の対象としての死であって、数に入れてはいけません。犯人が隠していると語った二つの死体とは、犯人自身とミルズのことでしょう。つまり、まだ死体になっていないわけです。しかし、この犯人の語ろうとしている物語の中においては、すでに確かな伏線が出来ており、つまり未来の二人の死はすでに隠されているというわけです。
さらに、脚本の上手なところは、ミルズの死は肉体的な死ではないということです。ですから、ミルズの死体とは、まさに生ける屍、実は最も残酷な殺人の結果だとも言えるのです。七つの大罪の中で「憤怒」が最も罪深いということでしょうか。冷酷な犯人(ジョン=ヨハネか!)がラスト近くに激高するのが、実に象徴的です。
この作品を評して、たとえば「羊たちの沈黙」に比べて、犯人の心理描写に弱い、などと言う人が多いですね。確かに表面的にはそうですが、私はそれこそがこの映画の狙いであると思います。理由なき完璧な物語の恐怖です。日常的な理屈を超えた、因のない果の集積こそ、「神」であり「悪魔」であったはずです。神の御名のもとに…これは、人間的な判断力を奪う呪文です。そういう意味では、悪魔の所業と何ら変わるところがありません。実際、日々のニュースを見ればよくわかります。こちらの神があちらの悪魔ですからね。
というわけで、最後、「憤怒」の償いはあまりに残酷です。救いようがありません。あるとすれば「死」だけです。しかし、それも叶わないでしょう。その不思議な余韻。どこかおさまりの悪い感じ。永遠に響き渡る属音…そう、バッハの無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番の、あの不気味かつ冷酷な、人知を超えて壮大なるフーガの、実質的な最後の音が属音であるように…救いようがありません。残酷ですが、それが人の真実です。
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