『99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方』 竹内薫 (光文社新書)
ベストセラーだというので読んでみました。当たり前のことが書いてある本ですけれど、私にとってはまさに救いの書でありました。
ここに書かれていること、つまり「世の中仮説だらけ」ということは、ある意味当たり前ではないのかもしれません。だから売れるのでしょう。そういう状況は実に憂慮すべきだと思います。だって、このことを知らないということは、世の中原理主義だらけになってしまうわけでしょ。実際そうですし。
で、そういう状況がどうも生理的に苦手な私は、教室でいつも言ってるんです。常識を信じるなって。だから、私の授業を受けている生徒たちがこの本を読めば、ああいつもあの変な先生が言ってることだ、って思ってくれるでしょう。そうだといいなあ。
けれども、私がこの本を「救いの書」と言ったのは、私がいつも言っていることを偉い人がスマートに書いてくれたからではありません。ある意味もっと単純でして、「仮説」という便利な言葉を教えてくれたからです。
そう、私が教室で語ると、どうも「常識を疑え」だとか、「先生や教科書を信じるな」とか、「マスコミに躍らされるな」とか、なんとなく被害妄想的というか、アマノジャク的というか、素直じゃない的というか、ローンウルフ的というか、とにかくちょっと性格が悪い感じになっちゃって、自分でもいやだったんですよ。
で、「仮説」って言葉を使うと、そんなちょい悪テイストがほとんどなくなって、なんかカッコいいじゃないですか。それこそスマートな感じさえする。これは使わせてもらいますよ。いい言葉覚えたぞ。
ところで、昨日の記事のことですが、あそこでの私の「読み」は、やっぱり仮説です。かなりの大仮説ですね。私は原理主義者ではありませんから、あれが絶対正しいなんて思っていません。もちろんです。ただ、仮説は鵜呑みにするべきでない一方で、可能性も秘めているわけですね。そういう可能性で遊ぶ心みたいなものって、人生を豊かにすると思います。99.9%が仮説でもいいじゃないですか。いや、それだからこそ楽しいし、この世に生きる意味があるのでしょう。
さてここで、私のスーパー大仮説である「モノ・コト論」とこの本を結びつけてみましょう。これもまた仮説です(笑)。
この本でも語られていますが、人は「なんだかわからない気持ち悪いもの」をなんとか説明して安心を得ようとします。そこで仮説が生まれるわけですね。これは、まさに私が言う、「モノ」を「コト」にする行為そのものです。つまり「カタル」ですね。「モノガタリ」です。で、私は何度も「コト化社会」はいかん、と言ってきたわけです。仮説を立てて安心してしまう、それを安易に信じてよしとしてしまう社会ですね。
筆者は「99.9%」という言葉を象徴的に使っていますね。なんで、そう書いたかは読者への課題となっていますが、文脈的には「0.1%」が「真理」だということになります。あくまでもレトリックとしてそう書いたわけでして、本当は人間が考えることは「100%」仮説です。しかし、筆者はカトリックの信者さんでもあるわけで、やはり人間の思索を超えたところでの「真理」の存在を信じたいのでしょうね。私も同感です。それこそが私の言葉で言うならば、「マコト」です。「真コト」ということですね。それが存在しないとしてしまうと、仮説を立てることへのモチベーションもなくなってしまいます。それでは人が生きる意味がありません。
とにかく、この本、科学や宗教や歴史や、その他もろもろの私たちの生活が、仮説だらけであることを示し、さらにそれらとのつきあい方、進んで人生を豊かに生きる知恵を授けてくれる、なかなかの良書でありました。結果として、科学書というよりは、宗教書になっているような気がしたのは、私だけでしょうか。救いの書と言ったのはそういう意味でもあるのでした。
Amazon 99・9%は仮説
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