『外来語と現代社会』(新「ことば」シリーズ19) 国立国語研究所
もらって読んだんですけど、とっても面白かった。笑えました。すみません、また不真面目で。
ここでいう外来語とは、主にカタカナ語のことのようですね。狭義の外来語。
そりゃ広義の外来語というのには、いわゆる漢語(主に中国からの外来語)も含まれるわけで、そうするとたとえば「外来語と現代社会」と言った場合、外来語ではない和語(やまとことば)は「と」だけになってしまいます。つまり全ての外来語を問題視していたら、我々現代人はほとんど何も話せなくなってしまう。
で、ここで問題視するのは、氾濫するカタカナ語に限定しようということでしょう。「カタカナ語の言い換え」問題ですね。
いろいろな意見があるのを承知で、私見を述べさせていただきますか。私はカタカナ語の現状には肯定的です。無理に言い換えをする必要はないという立場です。いつもの私らしくとっても楽観的なんです。漢語の受容の歴史と同様に、最初はわからないのは当たり前、そのうち淘汰選別されて、そのまま日本語になったり、漢語に言い換えられたり、あるいは消えていったり、それが言葉というものでしょう。
あと、やはり言葉の本質である「世界を切り取る」という面から考えても、とりあえず現状観察でいいと思います。それぞれの語に独特の守備範囲、指示範疇があるわけでして、それが確定するまでは原語のまま使用するのが筋ですし、確定後も既存の語との微妙なニュアンスの違いが認められるならば、やはりカタカナ語のまま行った方がいいというものです。「リベンジ」と「仕返し」「復讐」「雪辱」とは、その描く風景が微妙に違いますよね。
ま、文句を言う人がいるのもわかりますよ。情報化、国際化によって、あまりに高速に大量に外来語が流入してきますから。そして、それを一般人に説明しないで使ったりする性悪な現代人たちがいますからね。だから、安易に言い換えに走らず、説明機会を充実する方に意を注いだ方がいいと思います。つまり、逆の立場から言えば、しっかり勉強しよう、ということです。勉強しないでブーブー言うなと。
もちろん、漢語の場合は表意文字によって構成されていますから、見ればある程度意味がわかるというメリットがあります。でも音だけだったらわかりにくいものも多い。実は今日も自分の頭の中で誤変換があったんですよ。「サイケツ」って言われて「裁決」と変換してしまった。文脈的には完全に「採血」なのに。そういう同音異義の問題もありますし、たとえば受容初期においては、「ガッコウ」とかいう今となっては当たり前な言葉さえ、なんのことかさっぱりということもあったでしょう。そういう中を通り抜けて、一人一人の人間にも社会にも定着していくものなんですね。
この冊子にも、例の「言い換え例一覧」が載っています。176のカタカナ語の言い換えが載っている。頑張っているんですが、なんか頑張りすぎちゃって、無理しすぎちゃって、けっこうトンデモもある。で、笑っちゃったわけです。すみません不謹慎で。だいたい、ほとんどの外来語が漢語に言い換えられていまして、考えてみれば、それは英語を中国語に直しているということになっちゃいますよね。それぞれがまた、日本的ななんちゃって英語と、なんちゃって中国語だったりするわけですから、もうホントに事態は混迷を極めている。とっても楽しいことになってます。みなさんもこちらで勉強しつつ、笑ってやって下さい。
実は、こういった事態こそが言葉のあいまいさ、無常性、豊饒さを示しているのでした。「コトノハ」は「コト化(はっきり化)」の手段でありながら、「モノ(もやもや)」的な要素を持っている。やっぱり「コトバ」では「マコト」に近づけないんですよ。ロゴスは神になりえない。漸近するが到達しない。やっぱり不立文字なんですな。なんて、とんでもない方向に行っちゃいましたが、この本を読んで、まじでそんなことを考えました。
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