『増量・誰も知らない名言集』 リリー・フランキー (幻冬舎文庫)
イチロー君へ「野生のような鴨になれ」−長嶋茂雄。ある意味昨日の続き。天才たちの名言集です。
昨日はさんざん天才の「品格」について語りましたが、今日はこれを読んだおかげで、ホンモノの品格とはなんなのか、さぱ〜り分からなくなりました(笑)。この振幅こそ人生の悦びあります。
なにしろこの本では、あの王監督も、旅館の畳の上でブリーフ一丁で一本足、というあまりに上品な姿で登場します。まあ、ふんどし一丁で刀を振れば、それはそれで武士道か。
冒頭に挙げたカリスマのお言葉は、腰巻きに書かれているんですけど、本体にはこんな上品な言葉は一切出てきません。上じゃなくて下の品の連発です。
歴史的人物をかえりみるまでもなく、天才と呼ばれる人々が「上」にも「下」にも、そのカリスマ性を発揮していることは、誰もが認めることでしょう。例…赤塚不二夫。英雄色を好む。生物としての優性の法則。
ここで、リリーさんによって紹介されている天才、カリスマ、英雄たちは、はっきり言って市井の人々です。ですから、歴史的には全く名を残さないであろう人々です。その人々のお言葉ですから、それは確かに「誰も知らない」。
しっかし、世の中にはすごい人たちがたくさんいますなあ。昨日も自分の小ささみたいなものを感じさせられましたけど、今日はある意味もっと自分が矮小化しました。ヒュ〜ン…松坂慶子の鼻の穴の中に入っていくウルトラセブンのように…。
リリーさん自身ももちろん天才であるわけですが、まあ、なんというか、類は友を呼ぶというか、同じ穴のムジナというか、集まるところには集まるんですなあ、ヘンな人々。その何気ない(普通人にとっては全然フツウじゃないんだけど)生活の中の何気ない(これも同前)お言葉を聞き逃さず、短いエピソードながら、長編小説にも負けぬ人生の機微を表現してしまうリリーさんのセンス。もう、ホントに自分なんて…って世界です。
それにしても、在野の天才たちの名言とそれにまつわる風景をこれだけ見せつけられると、なんか切なくなっちゃいますね。最初は大笑いしてましたが、後半になるとなぜか切なくなる。「をかし」が「もののあはれ」になっていく。やっぱり「をかし」が積分されて「あはれなり」になっていくんだな、って思いました。これって、男の世界だよな。たぶん女にはわからないでしょうねえ。
天才と変態のボーダーってどこにあるんでしょうね。リリーさんなんかも、その見えないボーダーのほんのちょっとこっち側にいるだけですよね。一歩間違えば…です。そこんとこのさじ加減というか、結局は理性であるような気もしますが、なんなんでしょうねえ、ある意味勇気のなさというか、この世への未練というか、引き際というか、そういうものが鍵なんだと思いました。それの加減ってぜったい家庭でも学校でも教えてもらえませんよね。
最後に一言。各名言に英訳がついているんですが、それがなかなか上手です。しかし、名言本体の、つまり日本語の豊かさには到底かなわないように思いました。日本語は「切なさ」を表現する天才ですな。あっぱれ。
Amazon 増量・誰も知らない名言集
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