『やぎさんゆうびん』(童謡が示す人間の未来!?)
まど・みちお作詞、團伊玖磨作曲のこの曲、みなさんよく御存知ですよね。「白やぎさんからお手紙ついた…」ってやつです。
この歌に限らず、いわゆる童謡というものを、無垢ならぬ大人の邪心で読むと、いろいろと謎が出てきたり、ツッコミどころが出てきたりして、なかなか面白いことになりますよね。全く迷惑な老婆心切であります。
で、このスタンダード・ナンバーにもいろいろと謎があるようでして、多くの大人が無駄な想像に遊んでいるようです。白やぎさんの最初の手紙にはなんて書いてあったか、とかね。
よく言われるのは、この曲に3番以降があっても、結局双方ともついた手紙を食べちゃうので、永遠に終わりが来ない、ということです。そりゃそうだ。
馬鹿な大人の代表格を自任するワタクシは、そんな考察にさえツッコミを入れて、腹がいっぱいの時には食べないだろうとか、いずれいずれかが死ぬので永遠はないだろうとか、だいたいなんで自分が書いた手紙は食べないんだろうとか、どうでもいいことを抜かすわけです。
で、さらにこんなことまで考えたんですね。もし、やぎさんたちが過去の過失を反省して行動を改めたらどうか、って。
つまり、「ああ、この前は読む前に食べちゃって困ったんだ。今度は読んでから食べよう」って思ったらということです。食べない、じゃなくて、読んでから食べようの方が、やぎ的リアリティーがある。
しかし、ちょっと考えてみると、この反省には意味がないんですね。これは発見でした。こういうことです。わかりやすくするために各手紙に固有のアルファベットを付します。
白やぎさんから お手紙(A) ついた
黒やぎさんたら 読まずに 食べた
しかたがないので お手紙(B)かいた
さっきの 手紙(A)の ご用事 なぁに
黒やぎさんから お手紙(B) ついた
白やぎさんたら 読まずに 食べた
しかたがないので お手紙(C)かいた
さっきの 手紙(B)の ご用事 なぁに
さあ、ここで3番があると仮定してみましょう。白やぎさんが書いた手紙(C)が黒やぎさんのところにつきます。黒やぎさんは1番での反省に基づき、食欲という本能を制御して、食べる前に読みます。
読んでみると、内容は2番にあるとおり、「さっきの手紙(B)のご用事なぁに」ですね。ふむふむ、白やぎさんからの手紙は「さっきの手紙のご用事なぁに」かあ…と確認しつつ、ムシャムシャ食べちゃいます。
食べながら、黒やぎさんは返事(D)を書くことを考えます。白やぎさんに「さっきの手紙(B)のご用事なぁに」と訊かれたわけですから、当然自分が出したBの手紙の内容を書こうと思いますね。その内容とは、1番にあるとおり、「さっきの手紙(A)のご用事なぁに」です。だから、黒やぎさんが出した手紙(D)の文面は「さっきの手紙のご用事なぁに」になります。
さて、4番にまいりましょう。Dの手紙が白やぎさんのもとに届きます。白やぎさんも2番の反省に基づき、読んでから食べることにしました。読むと内容は「さっきの手紙のご用事なぁに」です。ここで、白やぎさんは「さっきの手紙」とはCの手紙であると思います。当然ですよね。しかし、黒やぎさんの意図は違いました。黒やぎさんは、3番で確認したとおり、Aの手紙(一番最初の手紙)のことを「さっきの手紙」と言っているわけです。
ここで、黒やぎさんと白やぎさんの「さっきの手紙」の内容に矛盾が生じました。つまり、黒やぎさんは最初の手紙の内容を知りたいと思ったのに、白やぎさんはCの手紙の内容「さっきの手紙のご用事なぁに」を返事Eとして書いてしまうわけです。
もうおわかりと思いますが、5番以降もこの齟齬は解消しません。Eの手紙の内容も「さっきの…」ですから、それを受け取った黒やぎさんは、彼にとっての「さっきの手紙」であるDの内容「さっきの…」を返事Fとして書く…という具合ですね。
というわけで、この歌では、白黒両やぎが反省するしないにかかわらず、理論上永遠に「さっきの…」がリフレインされるという恐ろしい状況になるわけです。これは怖いことです。
最初のちょっとしたミスが、修復不可能な運命を運命づけるという、う〜む、まさに人間世界の現実を見せつけられているような気さえしてきます…なんて書いてて、本気で鳥肌が立ちました。
これは深いのかもしれない。こんな歌を無邪気に子どもたちが歌っているなんて…。おそるべし、まど・みちお。おそるべし、童謡。
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