『ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで』 エドワード ゴーリー Edward Gorey(原著) 柴田元幸(翻訳) (河出書房新社)
先ほど生徒が貸してくれたんですけれど、ものすごい衝撃を受けましたので紹介しますね。
これは絵本なんでしょうか。誰が読むべきなんでしょう。子どもですか。大人ですか。
内容は、なんていうでしょうねえ、AからZを頭文字とする名前を持つ26人の子どもが、ただただ死んでいくんです。それぞれがライムの美しい短い詩に乗って。たとえば、こんな具合。私の名前と同じ頭文字Tを選びます。
T is for TITUS who flew into bits (Tはタイタス どかん! こなみじん)
左ページに英詩が、右ページにかわいらしい銅版画のような線描の絵が(その下に訳詩です)。それだけ。見開きで一人死んでいきます。淡々と。理由もなく。
ちなみにタイタスは、部屋の中で小包のような箱を開けようとしています。そういう絵が描かれています。
翻訳の柴田さんの日本語も見事ですが、やはり原詩のライムとリズムが実に不気味に美しい。あまりにリズムよく子どもが死んでいくんです。
これを読んで、ただ怖いとか残酷だとか、そんなふうに言うのは簡単です。いや心ある人間なら、途中で、いや最初に投げ出してほしい。しかし、人はおそらくZまで読んでしまうでしょう。もちろん私も最後までワクワクしながら読んでしまいました。
そして、読んでしまって、ようやく気づくわけです。「オレってなんでワクワクしながら最後まで読んでしまったんだ?」って…いや、それはウソです。そうじゃなくて、そんなふうに思ってしまう偽善的な自分に、です。
いろいろな解釈もできましょう。極端な虚構世界だと言いきってしまうことも可能です。しかし、私にはものすごくリアルに感じられた。今、今この瞬間も、たしかに、こうしてあらゆる名前を持った子どもたちが、あまりに連続的に、リズムよく死んでゆく。そこには正当な理由などないでしょう。
大人の死にはなんらかの因果が予感されます。それはワタクシ的に申しますと、ほとんどの場合、自己の内部で処理できる「コト」なのです。しかし、子どもの死は、ほとんど全て処理不可能な「モノ」です。いつも言うように、「モノ」は自分にとっての外部であり、いかんともしがたい、説明のできない、納得のいかないものなのです。
そういう意味で、私はこれほど鮮烈で明解な「物語(モノガタリ)」を読んだことがありませんでした。そして、それを自然に、流れるように読んでしまった自分に、鳥肌が立つのを覚えました。いや、だから残酷な自分とか、ではなくて…ああ、自分もやはりそういう「モノ」の一部なんだと。純粋で脆弱な「モノ」が自分の核にあって、日頃はそれをいろいろな「コト」で補強して、危なっかしく生きているだけだと。もっと具体的に言えば、自分はいまだに「子ども」であって、「社会性」や「知識」や「常識」やら何やらという鎧を身に着けているだけではないか…。
ふと、そんな気がして、不安になり、そしてなぜか安心もしたのであります。
自分の虚ろな心に、一枚膜を張れば、たとえばこれは子どもに見せるべき「地獄絵図」のようなものだ、とも言えるでしょう。26人の子どもたちには、考えようによっては、それぞれに過失があるとも取れます。そこに描かれているのが大人なら、「馬鹿な奴め」とか「自業自得」だとか言って鼻で笑ってしまうこともできるでしょう。しかし、ゴーリーは子どもを死に至らしめた。生身の人間は、こうして死と隣り合わせにある…そうした本当の現実、唯一の真実を、ゴーリーは一冊の絵本で描ききってしまった。
無常の、変化の終着点としての「死」。「生」の瞬間から、私たちはそこへ向かって歩き出します。本当は、生まれたばかりの子どもが、最もその終着点に近い存在であるのは確かです。
私たちは、その与えられた道のりを、いかに迂遠なものにするか、そのためだけに生きているとも言えるのです。「コトを為す(仕事)」「ことわざ(事業)」とは、その営みのことです。そして、最後は「コト切れる」わけです。抵抗虚しく「モノ」の道理に従わねばならない時が来るのですね。
そんなことを考えさせられた、ものすごい絵本でした。心を根底から揺るがされました。
Amazon ギャシュリークラムのちびっ子たち
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