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2006.03.07

『400年前の西洋音楽と古楽器』

400jj 最近、オーディオの話題を少し書きました。今日紹介するのは、その方面でもちょっと(かなり)マニアックなCDです。いや、その方面だけでなく大変興味深い内容のCDですね。
 このCD、今ではなかなか手に入らないものになってしまいました。発売元の技術新聞社(昔CDマガジンを出していた会社です)がすでにありませんので。
 タイトルの上下に、次のような文章が付されています。
「1591年(天正19年3月3日)秀吉が聚楽第で感動したあの調べ
  天正遣欧少年使節団が持ち帰った後期ルネッサンス音楽を再現」
 日本に西洋音楽が初めて入ってきたのは、16世紀の中頃でしょうか。たぶんポルトガル人宣教師がキリスト教音楽を持ってきたのでしょう。まず、歌でしょうね。楽器がいりませんから。器楽はその後でしょうね。
 で、例の少年使節団は8年くらい向こうに行ってきたわけですけど、どうもいろいろと音楽を聴いたり、練習したり、演奏したりしてきたらしい。当時のスペインやイタリアは、まさに後期ルネッサンスからバロックに移行する時期。つまり、ジョスカン・デ・プレやモンテヴェルディといった天才たちが活躍していたところに、彼らは行ったわけです。天才たちの演奏を生で聴いてたりして。かな〜りうらやましいですねえ。いくら金払ってもこればっかりは無理です。
 もう、そんなことを想像するだけでも、実にワクワクしますね。私も大学時代、そんなことを夢想してニヤニヤしていたものです。私の大学時代と言えば、バロック・ヴァイオリンを習い始めた時期。また、サークルでは、美しい女性たちに囲まれながら(?)山田流の箏曲なんぞをやっていましたから、当然そういう方向に興味が行くわけです。
 箏曲の祖、八橋検校さんは、筑紫箏を極めるために九州まで行っています。彼が亡くなったのはバッハやヘンデルが生まれた年ですから、九州に伝来していた後期ルネッサンスや初期バロックの鍵盤音楽なんかを耳にした可能性もあるんですね。よく言われることですが、八橋検校さんの「六段の調べ」などの段物が、カベソンらのディファレンシアス(変奏曲)の影響を受けて作られた可能性もある。私もそんなふうに思って、カベソンを箏で弾いたりしました(ってちょっと違う気もするけど)。
 また話がそれましたね。で、そのもっと前、少年使節団が向こうの楽器と楽譜と演奏技術をもって帰ってきたんですね。それで、聚楽第で秀吉に西洋音楽を聴かせたと。今から415年前の春のことです。秀吉は感動して3回演奏させたそうです。「アンコールっ!アンコールっ!」って言ったとか(言わねぇ〜)。
 というわけで、この録音はその伝説の演奏会を再現してみたというわけです。イタリア在住のマエストロ石井高さんが復元したヴィオラ・ダ・ブラッチョやクラヴィチェンバロ、リュートなどを使って、その時披露されたかもしれない(記録が残ってないんです)曲を演奏しております。
 具体的には、デ・プレ、モンテヴェルディ、ガブリエリ、カローゾらの楽曲が収められております。千々石や伊東や中浦や原が、こんなに上手に演奏したとは思えませんけれど(いや数年間必死に練習したら可能かも…)、当時の雰囲気を充分に味わうことができます。
 秀吉をはじめとして、当時の日本人に、かの国のポリフォニーや和声的な音楽はどう響いたのでしょう。今の私たちには想像すらできませんね。現代で言えば、異星人の音楽のようなものだったでしょうから。
 ところで、この録音は、AV(オーディオ&ヴィジュアル)界の鬼才、飯田明さんによるものです。おっと、今年から飯田朗さんになったんだ(昨年末に改名されたらしい…)。録音についての説明もかなり詳しくされていますが、正直マニアックすぎてよくわかりません。でも、たしかにとても素直なピュアな録音になっているのはわかります。久々に聴いてみましたが、こういうのを聴くと、ふだん聴いているCDの音が、なんか嘘臭く感じられますね。けっこう作ってあるんだよなあ、普通に。
 演奏者は、ヴィオラ若松夏美さん、リュートとガンバ中野哲也さん、チェンバロ曽根麻矢子さん、フルート勝俣敬二さんです。考えてみると私は、若松さんと曽根さんとは、都留音楽祭において「箏」で共演してるわけでして、なんか因縁めいたものを感じますね(笑)。私の音楽歴というのは、まったくよくわかりません(謎)。
 あっそうそう、ちなみにこのCD、純金CDです。だからたしか4800円くらいしたような。高くてちょっと躊躇したんですけど、「ああ、黄金の国ジパングだからしょうがないか…」って思って買った記憶があります。私の頭の中も、まったくよくわかりません(謎)。

石井高さんの著書「秀吉が聴いたヴァイオリン

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音楽」カテゴリの記事

コメント

はじめまして、こんにちは。
ボクは、音楽家なんですが、実は今度、秀吉の当時のきいていた音楽や芸術をヒントにコンサートをしたいとおもっています。なかなかCDが手に入らないのですが、なにか手に入る方法は知りませんか?
ご連絡いただけたら嬉しいです。

投稿: kohdai | 2007.03.29 22:46

kohdaiさん、こんにちは!
コメントありがとうございました。
のちほどメールにてご連絡申し上げますね。
少々お待ちを。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2007.03.30 14:45

私は天正少年使節と古楽器と純金CDには大いに関係がある者です。ご興味がありましたら何かご参考になるようなことをお話できるかも知れません。

投稿: strad | 2011.08.07 21:34

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