『ミゼットプロレス伝説〜小さな巨人たち〜』 森達也(企画) 野中真理子(演出)
昨日は2日ほど早く五郎さんのお誕生日を祝ってしまいました。今日は2日ほど遅くフランキーさんのお誕生日を祝います。いえ、リリー・フランキーさんではありません。リトル・フランキーさんです。ご存命なら48歳、年男でいらしたんですね。
リトル・フランキーさん、ご存知の方少ないんでしょうね。ほとんど最後のミゼット・レスラーと言っていいでしょう。今となっては伝説の「小人レスラー」です。残念ながら、2002年の夏に淋しく寮の一室でお亡くなりになっているが発見されました。
私は古くからのファンでありました。全日本女子プロレスの興行に出かけた折には、必ず「頑張って下さい!」と声をかけていました。最後に会話したのは、もう10年くらい前になってしまいます。グッズ売り場で売り子さんをしていたフランキーさんは、うつむきかげんに「はい」とおっしゃりました。不思議な恥じらいと哀しみをたたえたあのお姿が今でも脳裏によみがえります。
「小人プロレス」の世界について語ることは、ある意味社会的タブーもありますし、日本の社会史、文化史とからめて書き始めると、おそらくものすごく長くなってしまうので、また別の機会にしようと思います。
その小人プロレスの世界を正面から扱った稀有なテレビ番組を、今日は紹介したいと思います。昨日2年生の授業の中で鑑賞しました。毎年教材として使わせていただいております。あっ、そう言えば、先日書きました日芸の放送に合格した教え子、面接でこの番組のことを言ったそうです。そりゃあ、食いついてくるよなあ、マニアックだもん。
この番組、1992年にフジテレビで深夜放送されたものです。ある意味タブーを破った、ある意味有名な、ある意味知られざるドキュメンタリー作品です。企画プロデュースは、今やクリエーターとしてだけではなく、法に関する独自の視点を持った論者としても有名な森達也さん、演出ディレクトは、その後「こどもの時間」や「トントンギコギコ図工の時間」で才能を発揮されている野中真理子さんです。考えてみるとそれだけでもすごいな。
これもある意味有名なミスター・ポーンの「8時だよ全員集合事件」にも象徴されるように、いわゆるそうしたハンディキャップを背負った人を笑いものにしてはいけないという暗黙の了解、いやかなり明白な意志、というものが日本には根強くあります。それが逆差別を生んでいるという状況についても、ある意味同様に暗黙の了解が、というか暗黙の不了解があります。
メキシコでは小人として生まれた人を「ラッキーマン」と呼ぶことがあると言います。小さいからこそできることがあるのです。実際、ルチャ・リブレにおいては、ミゼット・レスラーは子どもたちのヒーローです。日本ではどうでしょう。ここでそのことについて言及するのは、それこそ了解されないでしょう。私にも勇気がありません。
そうした空気の最も濃いテレビというメディア世界において、この作品を作り、そして実際に放映した(たぶん2回)のは画期的なことでした。そしてそれを録画していた私はまさにラッキーマンでした。
実際、女子プロレスの会場で見る彼らは実に活き活きしていました。彼らの試合を観るお客さんたち…ほとんどが小人プロレス初観戦の地方の一般人たち…は最初はなんとなく不安定な自己の所在に躊躇していますが、彼ら小人たちの芸のおかげで、すぐにその居場所を見つけ、そして大笑いし拍手喝采するようになります。それは本当に素晴らしい瞬間でした。私はその空気の流れが好きだったんです。皆の心が解放される瞬間…。
生徒たちにはいろいろなことを感じ、考えてほしい。特に解説はしません。それこそ自分で感じ考えるべき問題だと思いますし、それぞれの答えがあってよいと思います。基本的に私は何を見せてもそんな感じですけどね。今日も1年生は実相寺昭雄作品を観ていろいろな表情を浮かべてました(笑)。
リトル・フランキーさんも亡くなりました。ミスター・ポーンさんも亡くなりました。番組に登場する他のレスラーの方も…。今やほとんど小人プロレスは虫の息です。いや、全女が解散した今となっては、日本の小人プロレスの歴史はとりあえず閉じられたと考えていいと思います。淋しいことです。
中世、いやそれ以前から続く、日本の見世物文化。私はそれはほとんど正しい文化であったと思いますが、近現代はそういった「モノ」を否定してしまいました。かろうじて残った「相撲」も、西洋のスポーツの観念で変形させられ、見るも無残な様相を呈しています。残念です。プロレスより総合格闘技の方が流行るご時世にろくなことはありません。
臭いモノ、不都合なモノ、まつろわぬモノは語り継がれずフタをされ、なかったものにされてしまう。まさに1か0かのデジタル社会です。せめて、その1が「正常」、0が「異常」という意味でないことだけを祈りたいと思います。
番組中、一人の先輩レスラーが、「オレたちは笑われてるんじゃない、笑わせてるんだ」という意味のことを力強く繰り返していたのが、今回もまた心に残りました。
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コメント
小人プロレスは、今も楽しかった思い出があります!中学生のとき、女子プロレスの試合の前に行われたショーは、笑いの渦でした!僕は現在45歳ですが、忘れられない楽しかった思い出です!
投稿: 新保 秀幸 | 2009.03.29 22:39
新保さん、コメントありがとうございました。
私も同世代ですが、やはり生で何度か見た小人プロレスは、最初はちょっとした衝撃でしたが、のちには本当に楽しみになりましたね。
現在はほとんど消えたも同然ですが、再びこうした優れた芸を生で味わえる時代が来るといいな、と思います。
このビデオに出てくるレスラーの皆さんの中にも、亡くなってしまった方がたくさんおられます。
昭和はずいぶんと遠くなってしまいましたね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.31 20:51
初めまして。
ふとした時に、リトル・フランキー選手の事を思い出し、検索したらこちらにたどり着きました。
もう亡くなられてから9年近くも経ったのですね…
この番組、私も見ました。多分、家のどこかにビデオがまだ残ってるはずです。笑わせてるんだという言葉にプロ意識を強く感じましたね。
今も、ミスターブッタマンは時折、プロレス会場で見かけますよ。
投稿: タンク | 2011.04.26 06:44