紀貫之 『古今和歌集仮名序』
「私、女だけど…」
ネカマっていうのがいますねえ。ネット上の掲示板とかで、ホントは男のくせに女言葉で書き込むヤツ。私もやったことあります。だってその方が2ちゃんでは優しくしてもらえるんだもん。
で、そういうのは最近の話かと申しますと、もう皆さんご存知の通り、昔からそういうヤツいました。日本語は世界的にも珍しく、文体の性差が大きい。つまり、「私、女だけど…」って書かなくても、女であることを表明できるわけです。近いところでは太宰治の「女生徒」なんか、ちょっと気持ち悪いくらいです。生理的文体とでも言いましょうか、やっぱり彼は天才です。
もっともっと古いところ…というかおそらく世界最古のネカマは紀貫之でしょう。土佐日記は冒頭からしてキモイっす。あれを学校で暗誦させたりするのはどうなんでしょう。「私、女だけどぉ…」って言ってるわけでして。
それで今日はその紀貫之さんに登場願いました。「古今和歌集仮名序」、例の「モノ・コト論」関係で久々に解釈し直してみました。これもカマ体で書かれています。当時、男がカナで書くこと自体カマでした。
岡田斗司夫先生やワタクシが前々から言っておりますし、最近では本田透さんの「萌える男」にもありましたけれど、「萌え=をかし」の感情、つまり「オタク的」な嗜好というのは、元来女性的なものです。刹那的、ミーハー的なんですね。いつも書いていますように、時間の流れを微分しつくして、時間の流れに伴う変化(それがつまり「意のままならない」という「モノ」の性質ですね)を無視する姿勢です。
古来男性はそういう嗜好や指向や思考を許されなかった。したいのにできなかった。その足かせになっていたのが、例えば「武士道」です。「もののふの道」です。「もののあはれ」を直視するのが男らしいと。しかし、一部の男性には「萌え」も許されていました。貴族たちです。経済的にも時間的にも精神的にもゆとりのあった彼らは、「オタク」であることを唯一許される存在でした。
その後、江戸時代には町人でさえ貴族的な文化を享受できる余裕を与えられました。そして、現代日本は言わずもがな。誰ですか、「下流社会」とか言ってるのは(笑)。アキバのあのきらびやかさは、どう考えても貴族文化じゃないですか。国風文化ですよ。
だから、その反動で「国家の品格」が売れるんです。そういう構造については、なぜ誰も何も言わないんでしょうねえ。まあ、私の視点がちょっとおかしいんでしょうけど。
おっと、またまた前説が長くなった。で、えっと…あっそうそう、世界最古のネカマ?紀貫之さんです。貴族です。彼(彼女)がエディターを務めた最古の勅撰和歌集である「古今和歌集」。ん?ってことは天皇家ってやっぱり「オタク」の頂点に君臨する存在なんだな。だって「みコト」だし。また話がそれた。で、その和歌集の序ですが、これは古来素晴らしい素晴らしいと言われてきたものです。ネカマをそんなにほめていいんでしょうかね。本居宣長もそうとう入れ込んでる。当時の京言葉で訳したりしてるんですが、それがまた全然ダメダメでして…。というわけで、解釈しなおしてるんですけど、今日はその有名な冒頭部分だけ紹介します。
やまとうたは、ひとのこころをたねとして、よろづのことのはとぞなれりける。世中にある人、ことわざ、しげきものなれば、心におもふことを、見るもの、きくものにつけて、いひいだせるなり。
これはよく読むと面白いですよ。「こと」と言う言葉が出てきますね。これは今までは単に「言葉」と訳されてきました。私は違います。「こと」は人間の脳によって認知され内部化された「もの(だったもの)」を指すと考えていますからね。まあ、例えば何か景色を見て感じ入ったとして、それを和歌にしますね、そうすると、創造された和歌そのものを「こと」と呼ぶのです(朗詠されたり、紙に書きつけられていなくても)。わかりやすく言うと「作品」とか「メディア」ということですかね。
そう考えると、この仮名序はとても示唆に富む文章です。我流の訳をしてみましょうか。
和歌は、人間の心を種として、たくさんの作品が生い茂る葉のようになっているものだったのです!世の中に存在する人間は、なんでもかんでもカタチにしたがるものなので、心に思うことを、見るもの、聞くものにつけて、和歌として言い出しているのです。
最初の「種」と「葉」はレトリックです。そこの味を上手に訳さなきゃ。「ことわざ」が面白いですね。これは養老さん的に言うと「脳化」のことですよ。「ことわざ」は漢字にすれば「事業」です。人間は昔から「事業」が好きだったんですね。ホリエモンみたいに。とにかく外部の「もの」を自分の「もの」として…内部になったとたん「こと」なんですが…保存したい。現代ではそのメインメディアが「金」なんです。
心におもふ「こと」っていうのもさりげないけれども面白いですね。やっぱり「こと」は心の中にあるんです。心で思った(考えた)その時点ですでに「コト」なわけです。そうすると、「語る」「歌ふ」「詠む」などの「ことわざ」以前の「こころの種」とは何か?しかと考える以前の予感のようなもの、そう、それはまだ「モノ(外部)」だと思うのですが、それは何なんでしょう。外部が内部に浸入してきた瞬間…。
私はそれが、茂木健一郎さんの言う「クオリア」だと思うのです。
と、いうところで今日はおしまい。長くなってしまいますので、またいつか。というか、この先はまだ考えてません。「コト化」されましたら,また言い出します。
いやはや、人間の「ことわざ」=「コト化作業」って本能なんですね。止まりません。やっぱり私もオタクですね。貴族なんだなしょせん。ホリエモンも小泉さんも(笑)。
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