『天才の栄光と挫折−数学者列伝』 藤原正彦 (新潮選書)
ベストセラーになっている藤原正彦さんの『国家の品格』、このブログでも人気記事となっていますね。私はいつもの通り軽いノリで感想などを書いたのですが、なぜかgoogleで商用以外のページとしては最上位に検索されたりして、とっても恥ずかしいことになってます(ページランクは0なんだけど…)。ショッカーとかセーラームーンとか書いてるんだもん。律義にコメントやトラックバックをくださる方もいらっしゃいますが、きっとそれ以上の失笑を買ってるんだろうなあ。かといって、今さら記事を書き直すのも「武士道」に反する!ということで正々堂々放置します(笑)。
さて、その記事の最後にも書いたのですが、インドの天才数学者ラマヌジャンに興味を覚えました。それを知って、『国家の品格』を貸して下さった数学の先生がすぐにこの本を持ってきてくれました。ありがたいことです。
天才数学者9人の生涯に迫るこの本、『国家の品格』とは違った意味で大変興奮させられました。
ここでいきなりカミングアウトしますが、私、数学がかなりできません。いわゆる算数までは得意だったのですが、数学になったとたん、なんというのでしょうか、前回りは自然に出来たのに、逆上がりになったら急に体が自分のものではなくなってしまったように思うにまかせない…みたいな、そんな感じになってしまったのです。ものすごく苦い挫折の記憶ですね。
でも、今はなぜか数学という世界にとても興味があるのです。とは言っても、解の公式すら危ういほど、その世界から遠ざかっているので、例えばこの本を読んで、いろいろな公式やら定理の名称やらが出てきても、それこそチンプンカンプンであることには変わりありません。
ただ、なんというんでしょうねえ、予感というか、そうアナロジーに基づく予想というか、そんな感じのものが自分の頭に確乎としてあるんですよ。それは、自分が経験してきたこと、比較的得意としてきたこととの類似性の予感です。具体的に言えば、音楽、文学、美術、哲学、宗教…。まあ、どちらかというと「文系」に分類されるものたちですね。
で、今回この本を読ませていただいて興奮した、その興奮というのは、やはり自分の経験や知識との共鳴による予感だと思います。それは、大げさに言えば、この本に書かれている数学者たちの歴史的発見の端緒となった予感に似ているのではないでしょうか。ものすごくずうずうしい言い方ですけれど。
最終章では、例の「フェルマーの最終定理」を証明したワイルズが紹介されています。ワイルズは「谷山−志村予想が正しければフェルマー予想も正しい」というリベットの証明を知り身震いします。その日本人が誇るべき「谷山−志村予想」にもいろいろとドラマがあるのですが、とにかくこの豪快かつ美しい予想は、それまで無関係と思われた領域を結ぶ、筆者の言を借りるなら「富士山とエベレストの間に、実は虹のかけ橋がかかっている」とでも言うべきものだった。そして、「二つの無関係な分野が結びつく、というのは数学者にとってもっとも心躍ること」なんだそうです。
最終的にワイルズは、岩澤理論という一度は援用をあきらめた理論をもって完全なる証明に至ります。ここでもまた日本人の業績が支えになっていることに驚くわけですが、いずれにせよ、一度は無関係、別世界としたものを結びつけているわけです。
こうしたひらめきと言いましょうか、遠くにあるものを結びつける能力に長けた者を天才と呼ぶのでしょうね。それこそ予感までは凡人でも体験できますが、それを具現化することができるかどうか、そこが天才への分かれ道でしょう。
ある意味、天才とは、もうすでに存在しているもの、中空に分散して我々が気づかないものをつかみとる能力を持った人とも言えましょう。作曲家や詩人の才能に近いと予感されます。またある種の宗教家にも見られる傾向ですね。世界の相似性については、釈迦も王仁三郎も強調しているところですし。
今日はだいぶ興奮しているので、ついつい文章が長くなってしまいました。ここではワイルズのことしか書けませんでしたが、もちろんラマヌジャンについても、また私の全く知らなかったハミルトンやチューリングなどにも感奮いたしました。あと、なぜかソーニャ・コワレフスカヤ…ちょっと萌えちゃいましたね。ああ、また最後に軟派な私が顔を出しちゃった。今日は硬派で行こうと思ったのに。このへんでやめときます(笑)。
と言いつつ、追伸。ジョン・マッデン監督の新作『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』が近々公開されますね。天才数学者とその娘を中心とした物語だと聞いています。残されたノートに書かれた歴史的な定理の証明。はたしてそれを解いたのは、父なのか娘なのか…。ちょっと観てみたいですね。あっそうそう、『博士の愛した数式』ももうすぐですね。
Amazon 天才の栄光と挫折
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