稲村雲洞作品集『心経類聚』『極の宇宙』 毎日新聞社 奎星会
う〜む。うなるしかない。そしてため息…。
この前、若手カリグラファーについて書きました。その記事を読んで、知りあいの書家の方(「国家の品格」、「天才の栄光と挫折」を貸して下さった先生です…つまり数学の先生にして禅僧でもある方)が、この二冊の作品集を持ってきてくれました。ありがたいことです。
若手には若手の良さがあったわけですけれども、こちらはもう、私がどうのこうの語ることも許されないくらい、峻厳なる世界。本物に接した時、私たちはただ無口になる。格が違いますね。品位の格が違う。まさに品格。そう、その言葉も出てきました。のちに紹介する対談の中に。
稲村雲洞先生を前衛書道家と呼ぶのはどうなのでしょう。違いませんか。御本人は納得されるのでしょうか。前衛なんていうとアートみたいじゃないですか。違いますよ。芸術でもない。完全に「道」です。全く古典的な道を究めた方ではありませんか。
印刷されたものからでも、こうして「気」が伝わってくる。本物の気にただただ圧倒されるだけです。実は上の写真、この作品集の表紙に採用され、かつ最初に掲載されている作品「貞」を書く稲村先生なのですが、実は合気道の雑誌「道」の表紙にもなったものです。私はなるほど、と思いました。合気道と言えば植芝盛平、植芝盛平と言えば出口王仁三郎です。オニさんの書もまさに「気」をつかみとり、紙にぶつけるような書風です。合気道については言うまでもないでしょう。いずれも道を極めたところに起こるエネルギーの自律運動…。
いや、私の蒙昧な言葉を連ねるのはやめます。この作品集には、ものすごい言霊も刻印されています。稲村先生御自身の文章はもちろん、宗左近さんの文章もいつものように縄文の火焔のごとき。
そして、「心経類聚」にある、もう一人の求道者平山郁夫画伯との対談。そこで語られる「道」は、完全に「禅」の境地になっています。
格、格調、品格というのは結局のところ「人格」なのです。お二人の話の中に、イチローのことが何度も出てきます。それも首肯されます。技術を超えた集中力。欲や俗や邪を捨てた無心。そのためには徹底的に自己を律する。それしかない。それで磨かれた美しい人格だけが、美しい宇宙の気の流れと共鳴しあえるのでしょう。そして、そこには真理と平和が刻印される。
「極の宇宙」はスケールの大きな一字書がほとんどですけれども、「心経類聚」の方は、いわゆる蝿頭書(ようとうしょ…極めて微細な文字による書、あるいは刻字)の集成です。いわば、自己の中に入っていく作品。いや、人に見せるためのものではありませんから、作品とは言えないかもしれません。無数の般若心経を見る私の目には、それらが稲村老師の美しい坐相の連続写真のように映りました…道極まれり。
「瞬発の集中」「一回性の持続」「持続の止観」「多即一」…まさに「不二」だなあ。やっぱり「色即是空」「空即是色」か。「モノ」とか「コト」とかいい気になって分析しているうちはせいぜい野狐禅。このブログもその名に恥じない内容にしていかねば…。自らを律して、理屈ではなく経験として観じたいですね。あまりに道は遠い…いや、一回性の持続、そう、とりあえず続けてみよう。
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