『不道徳教育講座』 三島由紀夫 (角川文庫)
今日は三島の命日ですか。先日テレビで思いがけず三島由紀夫神社の存在を知りました。神様になられてもう35年ですか。おそらく私にとっての最古のニュースの記憶は三島自害です。あまりに時代が変わりましたね。もし三島が生きていたら今の世をどのように憂うのでしょうか…って今日はいろいろなところで言われてるんだろうなあ。
さあ、今日は命日ですから、パーッと行きましょう。私にとっての三島は…正直言いますよ、命日ですから…「文章読本」と「不道徳教育講座」だけです(キッパリ)。小説もいくつか読んでいるはずですが、なぜか記憶にあんまり残っていないのですよ。困ったものです。若い時に読んでも実は解らなかったんじゃないでしょうか。
まあ三島なんて「ミシマ」あるいは「Mishima」って感じで、一つのブランドみたいなもんですからね。少なくとも私にとっては若い時のファッションの一つでした。ただ、文はたしかに美しかった。それだけは覚えています。ああ、意味は解らないけれど美しい。音楽や絵画にのめりこんでいた時期ですし、そういう感覚で彼の作品に接していたのは、ある意味間違いではないかもしれません。なんか、妙に「文章読本」を読み返したくなった…。
すみません、ホントに文学が苦手なもんで。一流の作家は一流のエッセイを書くことができる、みたいなことを言ったのは三島でしたっけ。彼がそう言ったとすれば、私にとっての三島がエッセイ作品であってもいいのでしょうか。
それで、この「不道徳教育講座」ですね。これはよく覚えていますよ。内容はやはり忘れていますが、読んでる時の気持ちのようなものはよ〜く覚えています。高校生の私にとって、この本と寺山修司の「家出のすすめ」は逆説的な教科書でした。世を拗ねる勇気のなかった私は、せいぜいこうした教科書を読んで、妄想の中でワルぶっていたのです(基本的に今でもそうかも…)。
「知らない男とでも酒場へ行くべし・教師を内心バカにすべし・大いにウソをつくべし・人に迷惑をかけて死ぬべし・泥棒の効用について・処女は道徳的か?・処女・非処女を問題にすべからず・童貞は一刻も早く捨てよ・女から金を搾取すべし・うんとお節介を焼くべし・醜聞を利用すべし・友人を裏切るべし・弱い者をいぢめるべし・できるだけ己惚れよ・流行に従うべし…」
読んだ当時、正直私はどこかでこう思い込んでいました。「これは逆説的な教訓話である」と。もちろん寺山の方もそうです。大人とはそういう存在であると思っていました。文学者ならではの言い方というものがあって、それはものすごくかっこいいものであると。三島は、自身この本の中で語っている「体裁を捨てて人生にぶつかることができるけた外れの正直者でないとつけない嘘」をついているのだと。
しかし、本当に最近気づいたのですが、これは嘘ではないのではないか、ユーモアとかパラドックスとか、そういう演出ではないのではないか、実はものすごく正直な言葉だったのではないか。
冷静に考えてみれば、たしかに三島は自らの言葉を忠実に実行しています。究極的には「人に迷惑をかけて死」んだわけですし。美文で着飾った小説家ではなく、この一見軽めのスケベおやじこそが三島自身だったのではないでしょうか。そう考えると、この作品は違った輝きを放ち始めますね。
生首になった三島を見て死ぬことの恐ろしさを知った少年の記憶には、彼の体は存在しませんでした。ものごころついて、彼がその失うことになる体を異常なまでに鍛え上げていたことを知った青年は、着飾った彼の文学を神格化しました。そして今、彼の没年齢に近づいた私は、ようやく彼の素顔に接することができるようになったのかもしれません。
なんか、パーッと行くつもりが、いつのまにか神妙になってしまった。いかんいかん。妄想だ。ホントのところどうなのか、美輪明宏様に訊いてもらいたいですねえ。あっそうそう、寺山にも。
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コメント
ICHIKA'S BOOK DIARYのイチカです。
こちらの操作が間違ったのか、こちらの記事にトラックバックを3つも重複してつけてしまいました。
たいへん失礼しました。
投稿: ichika | 2006.01.05 23:51
ichikaさん、TBありがとうございました。
ごていねいに三つも(笑)。よくあることですから気にしない気にしない。
寺山はいいですよ。若いうちにたくさん読んでおきましょう!
三島の不道徳…もぜひ。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.01.06 08:52