『国語教科書の思想』 石原千秋 (ちくま新書)
ようやく出ましたな、という感じです。今さら何とでも言えるよ、と言われそうですが、国語教育が道徳教育だなんて、小学生の時に分かってましたよ。というか、みんな薄々気づいていたでしょう。だから、そのこと自体は目新しいことではない。
この前書いた、定番教材「走れメロス」についての記事にも、直接的な表現は避けながら、そういうことを含ませてあります。そして、そんなこと高校生くらいになれば、みんな客観的に観察できる、とも婉曲に書きました。朧げに書くのは私に勇気がないからです、ハイ…だって恐いんだもん。怒る人多いから。
石原さんもかなり怒ってます。石原さんご専門のテクスト論から申しますと、この本のテクストは、テクスト自身が怒ってます(笑)。石原さん自身は私も大好きなんですが、石原さんから遊離したテクストは昔からあんまり好きじゃありません。「走れメロス」の記事で思いっきりテクスト論を否定してますね、私。勇気あるじゃん。
まあ、そんなことはいいとして、ようやく出ましたな、です。つまり、私はこの本に満足です。テクスト論は別として、私がいろいろなところで言ってきたことを、もっとマジメに学識と権威をもって発言してくれているからです。
去年の何かの研究発表でも私は、リテラシー教育の提案とともに、「今国語科で行なっている文学の鑑賞は、芸術教科内に科目文学を新設して行なうべきだ!音楽、美術などに加え芸術としての文学の授業を開講せよ!」などとたわけたことを言った記憶があります。笑いを誘うような言い方をしましたが、実は大まじめでした(勇気があるのかないのか…)。
もちろん、石原さんの提案する文学科と、私の芸術教科内文学とは、似て非なるものであります。それは、テクスト論と作品論の違いというよりは、二元論とまあいいじゃないか論の違いですな。まあ、キリスト教と仏教の違い程度の誤差でしょう。
石原さんは、これからのグローバル・スタンダードは「個性」だ「多様性」だと力説しながら、ご自分の説に固執する自己矛盾に陥ってるんですよ。でも、私はそういう作者石原先生の人間くさいところが好きなんです。言論人の、いや作家の苦悩ですね。
というわけで、「テクスト論」論になるのは避けたかったのですが、結局そういう方向になってしまいました。だって、石原さんが望むように、この本もテクスト論的に読むならば、私のように石原さんってカワイイとか思っちゃいけないわけで、それはやはり多様な読みの可能性を摘む…どころかこの本の本質すらつかめなくしてしまう、と思うから。
結局世の中の「もの」はいろいろな縁によって変化しているわけでして、そこに最低限、作者とテクストと読者が存在する方がいろいろな変化を楽しめると思います。そこにどう先生が介在するかとなると、それはもうそれこそ個人の趣味、個性、多様性の次元になってしまいます。国語教育ってものすごい広さと深さを持っていますよ。こうすべきだ、と言えない教科があってもいいと思います。私は恩師大村はま先生にそれを教わりました。
まっ、そんなわけで、私は存分この本も楽しませていただきました。だから満足です。
Amazon 国語教科書の思想
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コメント
はじめましてこんにちは。 石原千秋さんを調べててここにきました。 突然ですが質問があります。 最近 読解力をつけたいとおもうようになりました。 国語の問題を解くのがちょっとおもしろいとかんじるようになってきました。 「あー作者はそういううことをいいたかったのか-」とか、そゆうのがわかるのが面白いと感じてきました。(笑) どうやったら読解力はつくでしょうか?今考えてるのは 予備校の先生の参考書を買おうかなあと思ってます なにかアドバイスがあればなんでもいいんでください。 オススメの漫画、本があれば教えてください。もしよかったらそうゆう読解力をあげるコツみたいなのをブログのネタにしてくれませんでしょうか? よろしくおねがいします!
投稿: カリミ | 2006.02.11 12:53
カリミさん、コメントありがとうございます。
え〜?私がそんな大事なこと教えちゃっていいんでしょうか。
それでも、いちおう仕事柄持論もありますし、生徒達もそれなりの読解力を身につけているようですので、近いうちに何かにからめて記事にしましょうか。
とは言っても、しょせん田舎教師の戯れ言ですからね。あんまり信用しないようにね。
予備校の先生方の参考書は全て勉強になりますよ。さすがプロです。
おススメのマンガや本はこのブログのそれぞれのコーナーで御覧ください。
かなり偏ってますけど…。
では、近いうちに。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.02.11 13:06
返事ありがとうがざいます。 書こうか迷ったんですが(お忙しいでしょうし失礼かなと思って)いちおうダメもとで書いてみます。
こんなブログがあったらおもしろいんじゃないかなっておもうんです。
例えば最近売れてる本、ベストセラーの本を(別にベストセラーじゃなくてもいいですけど)を自分なり(読解力のあって問題作成能力のあるかたが)に問題作成して解説してるブログがあればおもしろいなーとおもってるんです。 やっぱそうゆうのじぶんでやるのっておこがましいと感じるんでしょうか?まあ、感じますよね。私はブログ(個人の意見)なんだし大丈夫じゃないかなとおもうし(やっぱ無責任かな?どうなんでしょう?)、ぜひそうゆうのを読みたいとおもうんですけど。 そこから解答にたいする議論が生まれたりして。。。 まっこんなことを書きましたが、ブログの記事にしてくださるとのことでそれだけでたいへんうれしいです。 どんな形でもいいんで、気軽にたのしみにしてます。
投稿: カリミ | 2006.02.11 17:48
カリミさん、どうもです。
なかなか素晴らしいリクエストですね(笑)。
とっても面白い企画だと思います。
でもですねえ、正直申しますと、ちょっと大変だなあって。
そうブログだからこそできるというのもあると思いますけど、実はですねえ…。
実は作問というのは、もんのすご〜く手間がかかるんです。
このブログのどこかにも書きましたが、とにかく何冊も本をちゃんと読み解いて、その中のどの本のどこの部分で問題を作るか…これだけでも、すさまじい手間がかかるんです。
私も年に何回か対外的に問題を作りますが、正直すごいストレスなんですよ(笑)。逃げ出したくなるくらい。
ですので、ブログでちょこっとというのは…難しいですね。
可能なら確かにやってみたいですし、面白そうですが。
予備校の先生とかがやってくれればいいんですけど。
そんなヒマないか。
というわけで、ご期待にはそえなさそうだなあ…。
とりあえず近いうちに出口さんか誰かの参考書をおススメしつつ、読解力について書きますね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2006.02.12 09:11
作問がたいへんな作業だということすごくつたわりました(笑) すばらしいアイデアといっていただきありがとうございます。 あれは、そういうことをしてほしいというよりも、こんなことを考えついて聞いてほしーなー、という気持ちで書きましたたんで、やってもらえなくても全然かまいませんよ(笑) そして記事ですがヒマなときそしてそんな記事を書こうと気が向いたときでいいんで別に近いうちじゃなくてもいいですよ。(気力の要る作業でしょうから) それでは。
投稿: カリミ | 2006.02.12 16:04