『ダライ・ラマの仏教入門−心は死を超えて存続する』 ダライ・ラマ14世 石濱裕美子訳 (知恵の森文庫)
これは素晴らしい本ですね。少なくとも私にとっては、基本文献と言ってもよろしい。『般若心経入門』にもかなり感動しましたけれど、こちらも勉強になりますし、癒されますねえ。原題が『The meaning of life』というのもうなずけます。人生の、生命の、生活の、生きることの意味が確かに記されていました。
先に『般若心経入門』を読んでおいたのは良かった。大乗仏教のエッセンスとも言える般若心経をダライ・ラマの語りで味わっておいたおかげで、より広範に、そして深く解説されたこの本が非常に読みやすく感じられました。
この私でも、ダライ・ラマの智慧と方便を兼ね備えた言葉によって、仏教の根幹をそれなりに理解することが出来たような気がします。特に、全てのベースとなる「縁起」の法と「空性」、そしてその結果としての「無我」というものが、少しですが理屈でなく自分の一部となったように感じられました(本当は一部でなく全部なのでしょうけれど)。あっ、そうそう訳者の石濱裕美子さんの、非常にタイムリーかつ詳細な注にも助けられました。私のようなシロウトには、このお二人のタッグワークは最高ですね。
ダライ・ラマはチベット仏教の中でもゲルク派に属するそうですが、他派や他宗、さらには他教にいたるまで、本当によく勉強しており、またそれらに対する寛容の心を持っています…それが一部では迎合だとか政治的だとか言われる原因なのかもしれませんが…。私からすると、それこそが利他の心、すなわち、慈悲心、菩提心の現れであると思われるのですけれど。いや、おそらく、迎合も政治も、仏陀の境地にしてみれば、互いに矛盾するものではなく、それこそ不二の存在であるのでしょう。
ゲルク派は大乗の中観帰謬論証派を重視しているということもあってか、私の注目する「言葉」の問題にも多く触れられていて、大変勉強になりました。その点でも大きな収穫がありましたので、いずれ自分の物語論にも応用してみたいと思っています。
それに関してちょっと。訳者解説の最後にある「現在、さまざまな学問の領域において、モノからコトへのパラダイムの移行が話題となっています。これは実体的思考から縁起的思考への転換とも言い換えることができます」という部分は、ワタクシ的解釈ですと間違い、全くの逆ということになってしまいます。すなわち、私は「モノ」こそ縁起を象徴する言葉だと考えているわけです。まあ、それはいずれ詳しく…っていつも書いてますが、なかなかモノになりませんね。
最後に、ちょっと面白かったダライ・ラマ発言。日本仏教について。総体的には日本仏教は重要な仏教だとした上で、世襲制について柔らかく苦言を呈し、そして、
「私の一般的な印象では、僧院に住んでいる日本人たちのなかには、勉強を怠り、現状に満足して、ただ寺の仕事をこなし、豪華な袈裟を身につけている人もいるように思われました」
と。いったいどのあたりを見たのでしょうね。
Amazon ダライ・ラマの仏教入門
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