『生き方』 稲盛和夫 (サンマーク出版)
昨日のプロジェクトXは、稲盛和夫さんを招いて、京セラの太陽電池開発のお話でしたね。ついにカリスマ登場!という感じでした。どちらかというとプロジェクトXらしくなく、淡々とした展開でしたが、それなりに感じるものがありました。
いまや経営のカリスマという名をほしいままにしている感のある稲盛さんですが、それ以上にまずは技術者として、あるいはそのリーダーとして評価をすべきでしょう。そして、それら三つの立場における成功の背後には、彼の宗教的な生活態度の存することを忘れてはいけません。
そんなわけで、今日は出張帰り本屋に寄ったついでに、得意の速読でこの本を即読(=即席読書)してきました。ずらりと並ぶ稲盛和夫コーナーの経営本たちの中で、ひときわ異彩を放っていましたねえ。
アマゾンのレビューを見ると一目瞭然ですが、この本の評価は大きく分かれるでしょう。内容があまりに宗教的だからです。もちろん私は全然大丈夫な方です。大丈夫どころか非常に共感できましたし、勉強になる以前にかなり癒されました。
前の記事でも書いた通り、稲盛さんは臨済宗のお寺で得度しています。つまりお坊さんになる資格を得ているということです。ですから、当然生き方に関するお話は仏教的になります。いやいや、仏教そのものです。
つまり、ものすごく簡単にまとめてしまいますと、この本の内容は、まさにお釈迦様の説いた「智恵」と「方便」そのものでした。かみくだいて言えば、「縁」と「利他」。もっとかみくだくと、「おかげさま」と「世のため人のため」です(稲盛さんはこう表現しています)。そして、それが実生活…つまり仕事、経営ですね…に結びついているところが実に禅的です。職業渡世の営みこそが修行である。
こういう仏教(特に禅)の教えになじんでいない読者にとっては、「経営のカリスマ」「京セラ創業者」「KDDI会長」というイメージとあまりにかけ離れたものと感じられ、ある意味不快でさえあるかもしれない。たしかにそういうレビューも多々あります。でもどうでしょう。お金稼ぎだけの人生なんて実につまらないものですし、だいたいそんな目標だけで世界的な事業をなしえるでしょうか。
この本に書かれていた「現場に神が宿る」ということは、セレンディピティーのことでしょうね。結局自分の行動、気づき、受容が必要なわけです。つまり努力なわけです。地道な、執念にも似た努力が、「縁」「おかげさま」「神」を生み、一見非科学的、非論理的な結果を現象せしめる。それを文章にすれば、やっぱりこうなりますよ。それを理解できない人には、永遠に神は宿らないでしょう。残念でした。ちなみに私はいちおう理解しましたが、神は宿りません。なぜなら、努力していないからです…orz。
あと、失敗が「業」を払ってくれる、というような話がありましたが、なるほどなあ、と思いました。「この程度の苦労で業を払ってくれるんだから、悩むどころか感謝しないといけない」と言った稲盛さんの師匠の言葉に、私も救われました。前向きが一番。
余談ですが、経営のカリスマの双璧、稲盛さんと船井幸雄さん、両者とも間接的にではありますが、出口王仁三郎の影響を大きく受けているのは面白いですね。なんとなく分かるような気もしますけれど。
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