養老孟司さん講演会〜なぜか私的オタク論
今日は当地で養老孟司さんの講演会が催されました。なかなかこういう機会はないでしょうから、ちょっと無理をお願いして、授業中に生徒たちを引き連れて行ってまいりました。生徒たちもかなり刺激を受けたようです。
うん、養老節全開で、なかなか有用なお話を聴くことができましたね。いろいろな御著書を読んでいます(ここでもこちらやこちらを紹介しています)が、それらとあまりトピックが重ならず、新鮮な内容であったのが意外と言えば意外でしたね。あまり「脳」原理主義を強調していなかったのが良かった。
面白かったのは、「個性」のお話。
…近ごろ、自分の個性を見つけるのに躍起になっている姿(特に若者)をよく目にするが、それは根本的におかしい。個性とは、他者の判断であって、没個性なんていう現象は、つまり他者(特に年長者)の「人を見る眼」が衰えたに過ぎない。独創的で個性的なんていうのは、単にローカルなだけである。そういう意味で、例えばアインシュタインは、独創的で個性的な発想をしたのではなく、その逆、ものすごく普遍的な発想をしたのだ…
記憶をたどってつなぎあわせると、こんな感じだったでしょうか。なるほどな、と思いました。養老さんお得意の視座の移動です。これが私たち常識人(?)の脳にはさわやかな刺激になる。脳の凝りがほぐれるんですな。
ローカルとグローバル(あるいはユニバーサル)との違いとは、「脳」を違う切り口からほぐす茂木健一郎さん的に言うと、「生活知」と「世界知」との違いということですかね。もっと押し進めると、仏陀の「方便(いかに生きるべきか)」と「智恵(真理を悟ること)」に重なるような気もしました。つまり両方必要なわけです。
その他にもたいへん興味深い視座の移動がありました。やっぱり頭がいいというのは、養老さんのように脳が硬化していない人のことを言うんですね。必要以上に他者の見る眼に縛られていない脳。違う言い方をすれば、世間に染まりきっていない脳。
最後に蛇足をあえて描きます。今日の講演にインスパイアされて生まれた戯言ですので、お読みにならなくても結構です。
以前から、養老さんの言う「脳化」「都市化」が、私の言う「こと化」であると考えていました。変化しないもの、分かるものへの指向。今日のお話でも、戦後日本の若者が、突拍子もない変化ばかりする大人を信用できず、結局変化しない「機械」を作る方に走った、それが高度経済成長だ、という内容がありました(養老さんは変化しない死体に向かったそうですが)。ワタクシ的に言いますと、それは「もの」を作ったのではない。「こと(もどき)」なんですね。変化しないのは「こと」なんです。「もの」は実は変化する。無常なのです。
だから現代の物質文明は「物質」とは言えど、それは「もの」文明ではなく、時間を微分することによって疑似的に不変なもの、すなわち「こと(もどき)」を作り出していく、どちらかというと「こと」文明なのです。それでも変化を感知してしまったら、廃棄して次の疑似的な不変を生産していく、経済と科学の進展が招いたその場しのぎの文明であるのです。
しかし、これは日本では古来行われてきた無常からの逃避方法でした。何度も書いているように、「無常(もの)」を直視するのが「あはれ」、刹那的に凝視して(時間を微分して)変化をないものとしてしまう(こと化する)のが「をかし」であったのです。現代のオタク文化はまさにこの「をかし」の系譜上にあります。フィギュア的フェティシズムとでも言いましょうか。彼ら(私も含まれるかも?)には、萌えの対象は疑似的に不変なのです。では、本当に不変なものとは…それは真理です。本当の「こと」。「まこと」であり「みこと」であったわけです。以上。
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