『絶対少年』〜輪郭線とは?
6月におススメしたNHKBS2のアニメ「絶対少年」が終わりました。途中ほとんど観ていなかったので、ストーリーは全くわからなくなってしまいました。第一部の田菜編はなんとなく分かるのですが、第二部横浜編になるともうさっぱり。田舎と都会、過去と未来のコントラストはぼんやり分かるのですが…。
しかし、ストーリーは別として、その画風にはついつい引き込まれて見入ってしまっていました。私はアニメには全く暗い人間ですので、詳しいことはわかりませんが、テレビアニメにしては、絵がとてもていねいに描かれており、そしていろいろな意味で落ち着いていたように感じました。それについては以前書いた通りです。
さて、実はここ数ヶ月、生徒と美術のお勉強をしておりまして、特に絵画における「輪郭線」の意味について考えることが多くありました。取り上げたのはミュシャと仏教美術の一つ「頂相」でしたが、実は私はその二つに加えて、この「絶対少年」も同じような視点で観ていたのでした。この三者、驚くほど受ける印象が似ているのです。単に色の彩度が低いということもありますが、それ以上に「輪郭線」を考える上で…。
非常に簡略に申しますと、東洋美術は輪郭線こそがほとんど唯一の描法であったのに対し、西洋美術は輪郭線を消し去ることに執念を燃やして来たとも言えます。つまり、現実には輪郭線は存在しないわけですから、それは結局、記号性と写実性の対比であるわけです。そういう意味で、「line」の語源が「linguistic」の語源と同根だというのは面白い事実ですね。「輪郭線」も「言語」も、世界から認識を切り取る手段、つまり記号化の手段だったわけです。
仏教美術の「頂相」はもちろん線によるドローイングで描かれています。ミュシャは西洋の画家ですが、輪郭線と平面的な彩色による象徴性の高い商業ポスターなどをたくさん製作しました。ジャポニスムの影響が大でしょう。そして、日本のアニメ。例えばこの「絶対少年」は、東西両方の技法を実に上手に織り交ぜていることに気づきます。
例えば、上のキャプチャー画像を見ていただくと分かるかと思いますが、人物は輪郭線に平面的な彩色、背景の景色は陰影の豊富なペインティングによって描かれています。つまり写実の上に記号を動かしているわけです。重要な情報を記号化して浮き出させている。そして、輪郭線が太くなればなるほど、その象徴性、記号性は増し、写実からはどんどん離れていきます。右の画像はオープニングのものですが、「絶対少年」では、オープニングと次回予告では、本編とは違い、太い輪郭線が用いられています。
アニメのルーツの一つであるマンガを考えてみると、これはもちろん線描による世界です。基本的にモノクロですし、非常に記号性が強まっている。だから文字という記号とも親和性が高い。完全に東洋的、日本的な世界ですね。アニメはそこに、動きと色彩、そして音声という情報が加わった結果、上記のような技法を必要とするに至ったのでしょう。多量の情報の中で、キャラクターを引き立たせるために。
ま、なんだか難しそうなことを述べてきましたが、とにかく「絶対少年」では、そんな東西の文化のコントラストを感じることができました。いまやアニメは日本を代表する文化ですからね。たしかに東西を絶妙にブレンドした世界です。自分の文化に加え、外来のものを受容し、それを上手に自分たちの血肉にしてしまう。一見矛盾するものを、さらなる高次元のものへと止揚してしまう。たしかに日本文化ですなあ。最強です。
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