うる星やつら 第112話 『ラムとあたる・二人だけの夜』〜なぜか源氏物語論?
土曜日に録画したものを観ました。なかなかの名作ですなあ。
ストーリーも秀逸ですが、押井組の暴走ぶりがとにかく楽しい。スターウォーズのパロディも全開。かなりメチャクチャなことになっています。
で、そのストーリーと暴走ぶりの出所を確認するために、原作にあたってみました。う〜ん、なるほど。ストーリーはほとんどそのまま高橋留美子さんのオリジナルなんですな。そして、暴走部分はほとんど全てアニメスタッフのオリジナル。なるほどねえ。
で、ちょっと気がついたんですが、その暴走シーン、冒頭のあたるの母の福引きシーン以外は、男の心理描写なんです。やはり男が作ると男の描写が詳細になる。あるいはデフォルメされる。一方、原作はやはり女流作家によるものらしく、女性の心理描写に長けているように思います。女のドロドロは女でなければ描けません。
男のドロドロはやはり男じゃなきゃ分かりませんよ。女のドロドロはだいたい他の女に向かうので分かりやすいんですけれど、男のドロドロは自己に沈潜しますからね。表面的には分かりにくい。結局表現するなら「暴走」、それも誰に当たるわけでもなく、自己完結する暴走。「メガネ」なんかいい例ですよね。原作では全く存在感のない男が、アニメでは暴走主として輝く。
そういう意味では、源氏物語はやはり女流の作品です。男の心理描写は実は甘い。なんか現実的ではない。自己暴走していません。そこが、私なんかには物足りないんです。「もののあはれ」を鋭く感じ取る点においては、紫式部は非常に男性的だと思います。枕草子の清少納言の方が女おんなしてます。彼女は「をかし」…刹那的なんです。一般の意見とは違うかもしれませんが、私は常にそう思っていました。そう、それで紫式部は男性的なんですが、しかし男自身ではない。そこがちょっとつまらないんです。やっぱり源氏は女の読み物だったのでしょう。光源氏が「さよならの季節」のめがねみたいに自己暴走したら…ひくか。
さて、うる星に戻りますと、アニメの方は、男性の手にかかることによって、より男の虚しさが際立ったと思われます。今回の作品でも、あたるは意外に思慮深い。先の先まで考えています。刹那的な男の代表みたいに見えつつ、実はいろいろと計算しているのです。原作ではそこまで描かれていません。また、ラムの目を見てドキリとするシーンや、いざラムと寝るという時の情けなさ、これは男にしかわからない微妙な心理ですね。
話があっちこっち行って申し訳ありません。また、源氏の話。源氏のパロディはいろいろとありますが、江戸のおたく精神が産んだ傑作、柳亭種彦の「偽紫田舎源氏」なんかをちらっと読むと、その男性心理の描写のリアルさに感心します、というか笑えます。
そう言えば、源氏とうる星って似てるんですよね。なんだか知らないけれど、一人の男に美女がたかる。そこから始まる物語。こういうのって、ギャルゲーなんかにもよくあるようです。たぶん。つまり、しっかり日本の文化は受け継がれているわけです。いろいろな時代のいろいろなおたく達によって。それも結構女流が多いんだよなあ。こんなこと考えてるのって、ワタクシだけでしょうか?
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