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2005.10.10

ドラマ特別企画 『太宰治物語』 (TBS)

ET22 正直期待外れでした。やはりフジの佳作『「グッド・バイ」 私が殺した太宰治』を観た立場からすると、ドラマとしての脚本と演出に物足りなさを感じてしまいます。いや、豊川悦司を初めとするキャスティングは悪くなかった。予想に反して自然に観ることができました。
 しかし、太宰にせよ、美知子さんにせよ、人間としてもう少し踏み込んで描いてほしかった。他の人物も、なんとなく印象に残らないまま終わってしまいました。あくまでドラマなのですから、もう一歩描き込めないものでしょうかねえ。まあ、実名という制約もありますよね。脚本家が苦労しているのはよくわかりました。
 ただ、再確認したのは、美知子さんの偉大さです。私は太宰の作品の半分は美知子さんが書かせたものだと思っています。ついつい、他の女性たちに目が行きがちですが、私は美知子さんの存在をもっと評価すべきだと常に思っています。結局、太宰にとっての理想の女性であり、妻であり、母であったのです。だから、太宰は思いっきり甘えてしまった。その甘えを苦しみながらも受け止めたことが、あの奇跡的な太宰作品群を産む土壌になったんですね。
 あと、なるほど、と思ったのは、口述筆記の場面です。たしかに、口述筆記時代の太宰の文体には、心地よいリズム感がある。講談調とも言える独特のリズムです。ああ、口述筆記の効果は大きいなあ、と思いました。やってみようかな。自分で録音したりしてね。
 今回のドラマの舞台にもなった御坂峠の天下茶屋。私は特別の思い出があります。とても恥ずかしい記憶なので詳しくは書けませんが、茶屋の御主人に、たくさんのお客さんや生徒たちの前で小一時間怒られたことがあるのです。それはまさに太宰の醜態そのものでした。太宰も、いろいろなところで、先輩やら友人やらに、こっぴどく叱られてシュンとなっていたらしい。きっとそんな太宰が、私に彼らしいいたずらをしたのだと、今では思っています。そう考えると、なんともありがたい体験でしたね。
 このシーズンになると、1年生の現代文の授業は太宰治一色になります。ウチの学校の周辺は、あの「富嶽百景」の舞台そのものですし、その他の小説やエッセイにも、すぐそこの池や駅や道や店が出てきます。太宰が歩いた道。そして、財布を落とした道。それが学校のすぐ横なのですから、そういった幸運を生徒にも感じてほしいと思っています。ある意味太宰治第二の生誕の地であるわけですから。

真説?走れメロス

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コメント

こんにちわ。
おとついから、拙ブログの「検索ワードランキング」に太宰治の関係がやたら多くて(一度に250件くらい集中する)、桜桃忌でもないのになんでだろうと思っていたのですが、なるほど、たぶんこのドラマの終わったあたりから視聴者の方が、ネットで調べたということなんでしょうね。
美知子役が寺島しのぶさんで、太田静子を菅野美穂がやったのか。見とけばよかったなあ。

投稿: かわうそ亭 | 2005.10.12 09:47

かわうそ亭御主人さま、TB&コメントありがとうございます。
こちらからもTB打たせていただきますね。
そうですか、そちらにもだいぶお客さんがいらしてますか。
こちらの庵も千客万来状態です。テレビはやっぱりすごいっすね。
そちらの記事、とても興味深く読ませていただきました。
津島佑子さんと太田治子さんってどういうご関係なのでしょうねえ。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.10.12 09:57

太宰治の作品のファンです。ドラマについては同様の感想を持ちました。ケロログにBlog表現よみ作品集として太宰治のよみをいろいろとアップしています。お聞きになりませんか。

投稿: 渡辺知明 | 2005.10.12 21:09

渡辺様、TB&コメントありがとうございます。
ケロログ一部拝聴いたしました。
すばらしい表現よみですね。
特に「駆込み訴え」は私のイメージにぴったりでした!
私も言葉について考えることの多い者ですが、渡辺様のサイトはいろいろと勉強になることがあります。
今後ともよろしくお願いいたします。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.10.13 18:32

ケロログの以前に「表現よみ作品集」というものをホームページに公開しています。そちらにも、また、別のだざい作品がありますのが、またお出かけください。音声表現については、高低アクセントに最大の疑問を抱いています。

投稿: 渡辺知明 | 2005.10.15 10:21

渡辺さま、コメントありがとうございます。
今、まさに渡辺さまのサイトを聞きあさり、読みあさっているところです。
実は、私は大学で日本語のアクセント史を専門に勉強しました。
趣味も兼ねて、江戸時代の音楽の旋律と江戸語のアクセントの関係について調べたりしました。
もちろんその前提は高低アクセントです。
渡辺さまのおっしゃるとおり、生きた言葉のアクセントは高低のみではありません。
一つの単語の高低アクセントが、助詞を伴うだけで変化してしまうことからも、高低アクセントの絶対性の低さがうかがえます。
語彙の認識のためのアクセントは高低のみでまかなえますが、生きた言葉、つまりメッセージとしての文においては、その価値はかなり低いものだと、私も考えています。
音楽を演奏する立場からもいろいろと申し上げたいこともありますが、それはまたのちほど、どこかで。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.10.15 10:35

こんにちは。Jannitaです。コメントありがとうございました。
私、この番組観ようと思って見れなかったんですよね~。…ハズレでしたか。
豊川悦司さんは好きな俳優さんなので期待感があったんですが、やはりTV化だと予算も限られますしね。
映画で『人間失格』というタイトルのものがあって借りたことがあるんですが、これも大ハズレでした。
とよた真帆、緒川たまきなど、好きな女優さんが名を連ねていたし、この時代の映画にはよく使われる佐野史郎とかも出ていたので借りてみたんですが、肝心の太宰役が河村隆一だった…。(汗)
これ以上なくひ弱な太宰で、中原中也役のほうがよかったんでは?と思わせるほどでした。
内容も太宰の弱さを延々強調するような作品で、文学的価値とかには一切触れていない駄作でした。
…副題の『僕と、死ぬ気で恋愛してみないか?』でピンとくるべきでした。(笑)
太宰の作品では短編が好きですね。
『新樹の言葉』に入ってる『美少女』とか、ああいう後味のさっぱりした話が好きです。
季節も秋から冬になりつつあり、太宰の作品が読み返したくなってきますね。
もっと太宰の文学的才能を評価するような映像作品がこれから出て来てほしいと思う今日この頃です。

投稿: Jannita | 2005.10.31 11:46

Jannitaさんコメントありがとうございます。
そうなんですよ。
今回ははずれ。河村隆一よりはずっとマシでしたが(笑…不覚にも私も見てしまいました)。
なぜか、この季節になると太宰なんですよね。
さっそく「美少女」読み直してみます。
今回のドラマでの収穫は「口述筆記」のシーンくらいですかね。
彼は文章の天才なんですよ。私にとっては彼の文章は音楽なんです。
そういった評価があまりなされていないようですけれど。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.10.31 11:54

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受信: 2005.10.12 09:30

» TV『太宰治物語』と太宰治の作品 [Blog ことば・言葉・コトバ]
 きのう(05.10.10)のTV『太宰治物語』(TBSテレビ)の感想がいろいろとあがっている。わたしも太宰治のファンの一人としていろいろと言いたいことがある。  「明るい太宰」というキャッチフレーズであったが、まったくそれは出ていなかった。主役の豊川悦司の見かけはよく太宰らしくできていたが、その態度はずいぶん想像とはちがう。妻もあんなに泣きっぱなしではなかっただろう。結局、野原一夫あたりの伝記から拾い出したエピソードを順序にならべて映像の処理でごまかしたような作品であった。太宰治につ... [続きを読む]

受信: 2005.10.12 21:08

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