『ノラや』 内田百けん (中公文庫)
先週の金曜日の興奮いまださめやらず。そこで、いい具合にクールダウンしてくれる読み物を…うん、やっぱりこれでしょう。
それにしても、内田百けんの「けん(門の中に月)」が表示できないってどういうことですか。入力はできますが、保存すると「内田百?フ」になっちゃいます。「?フ」って言われても…なんとも脱力してしまいますな。沈静化には効果ありですか。まあ、仕方ない、百けんで行きましょう。
さて、この本は、私にとって文章のお手本の一つです。私がお手本としている書き手は、ジャンルごとにたくさんいるわけですけれど、文学畑ですと、この内田百けん先生、太宰治先生、幸田文先生といったところでしょうか。少し対象を広げれば、串田孫一先生や赤瀬川原平先生、それに鈴木孝夫先生(やっぱりまた出ちゃった)も、文章の先生です。
特に、この内田先生(ホントは百?フ先生って書きたいんだけどなあ)の軽妙洒脱な文章は、私の憧れですよ。こういう自然な文章書きたいですね。内容、文体ともに完璧。日常の風景のようにさりげなく流れゆく言葉たち。力んだ、作られた言葉にではなく、こういう言葉に生かされている自分に気づくこと、そのことこそが、内田先生の文章を読む喜びです。
だいたい、猫を溺愛している、もうメチャクチャに惚れている、そのことだけでも私にはたまらない。これは、まあ猫好きにしかわからない部分でしょうが。また、本人同様メチャクチャな奥様に関する描写がたまりませんね。ウチの夫婦も全く同じ状況ですので、先生の気持ちがよく分かります。男って、ふだん愛情を上手に表現できないんですよね。実はカミさんの(女の)愛情には負けないぞって思ってるんですけどね。そこがまた実にリアルに可愛く表現されています。
文体の特徴はなんなのでしょう。上に挙げた私の先生方の文章の特徴の一つは、そのリズム感だと思います。私は文学以上に音楽を愛する者ですから、そのあたりに敏感なのでしょう。そのリズム感が醸し出される仕組みについては、大学時代、「言語美学」(ソシュール研究家の小林英夫さんですね)を通して考えましたが、やはり無理でした。
私の感じるところによれば、この内田先生のリズム感は漱石先生譲りではないようです。漱石ってリズム感悪いですよ。私に言わせると。内田先生は宮城道雄先生との親交が深かった。私もいちおう琴など弾きますので、そんなシンパシーも含めて考えますと、やはり内田先生の美しいリズム感は、日本語と密着した音楽から学んだものだと信じたいところです。宮城先生も内田先生から多くを学んでいますし。
内田先生と言えば、黒沢明監督の「まあだだよ」も思い浮かびます。これはちょっといけなかった。内田先生はあんな、ただのいいオジサンじゃなかったと思いますよ。あまりに美化しすぎた。クロサワは、もうあの時死んでいましたね。
とにかく、今日は内田先生の「ノラや」「クルや」の情けない声に癒され、私の心に久々夕凪の戻った一日でした。ありがとうございました。
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