『20世紀とは何だったのか 「西欧近代」の帰結』 佐伯啓思 (PHP新書)
このシーズンは毎週末模試。模試の監督ついでに今日はこの本を読んでみました。ものすごく勉強になりました。いい本です。
この前、自分を知るために20世紀を復習するみたいなことを書きました。しばらくそんなシリーズで読書しようかな、なんて考えています。
この本は、京都大学の教養講座の内容をまとめたものだそうで、文体もていねいな講義調でとてもわかりやすい。まあ、私の程度が高校出たて程度ということでしょうか、たいへんしっくりきました。また、今までなんだかんだ避けてきた哲学の分野の解説も実に易しく優しくかみくだいてくれてあり、それはそれは分かりやすかった。それでも、もうすでに忘れかけてますけど(笑)。
内容は、私が要約するべきではないほど簡明ですので、実際読んでいただくとしましょう。ここでは、それぞれの章を読む中で、共通して感じたことを記しておきます。
それは、いかに私たちが「二項対立」の図式でものごとをとらえているか、ということです。「西」「東」、「アメリカ」「ソ連」、「近代」「前近代」、「戦前」「戦後」、「絶対君主制」「民主制」、「正」「悪」…この本では、そうした例がいろいろと挙げられつつ、シンプルすぎるデジタル的認識に警鐘が鳴らされています。
たとえば、アメリカとソ連一つとっても、それは元をたどるとフランス革命が生み出した「自由主義」と「社会主義」の対立であり、また、米ソの二者択一的雰囲気に違和感をおぼえ、対抗手段に出たのがヒトラーであったり、事情は非常に複雑なわけです。あるいは、考え方によっては、アメリカとソ連は似ている。フランス革命のもう一つの産物「保守主義」を打破するために生まれたという意味では、米ソは兄弟のようなものです。違う言い方をすれば、貴族的なものを排除し、労働する者の共和国という意味でも非常に近い関係であると。このようなことを筆者はくりかえし強調しています。
こうしたデジタル的な思考は高校生までにしておけ、とよく生徒に言うんですが、自分もついつい楽な方に行ってしまう。第三の視点を持ち込んだり、原点に帰ったりすることを忘れているんですね。
そういう意味では、この本における、筆者のナチス論や、ニーチェのニヒリズムとハイデガーの思想、そしてそこからつながる現代アメリカ論は、実に目からウロコのエキサイティングな内容でした。ご専門である経済の章は意外にも一般的な内容だったので、ちょっとがっかりでしたけど。
現代のアメリカ、いやアメリカナイズされつつある世界の多く国々で、ニヒリズムに陥っていることすら分からない究極のニヒリズムが進行している。ニヒリズムは克服できないけれども、それをやりすごすくらいの術は身につけなくては。このように筆者は結んでいます。今のアメリカは、ニーチェの言う「超人」の幻覚を、自分たちに見ているのではないか、と思いましたね。ニヒリズムのお祭り状態なのではないでしょうか。ここで、出てくるのは、やはり仏教的な考え方、いや対処法だと思うんですけどねえ。筆者はどちらかというと、仏教的な諦観、無常観にあまり期待していないようにも感じましたが。
Amazon 20世紀とは何だったのか
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コメント
いつも楽器のことではありがとうございます。
近い内に美味しいお酒手に入れますので、鍋で盛り上がりましょう。
さて、デジタル思考への危惧はいろいろな所で言われていますね。
こういう思考が根付きつつあるようなのが、気になります。「あれ」か「これ」かしかないなんて、ほんっとに、つまらないですよね。
仏教的対処法というか、私もらせん式、ぐるぐる思考法というのに期待しますね。
投稿: よこよこ | 2005.10.23 21:19
昨日はおつかれさまでした。
おいしいお酒をいただきたいシーズンになりましたね。
また企画しますのでお楽しみに。
そうなんですよ。デジタル思考って単なる怠惰か武装なんですよね。
まず、自分を1だと勘違いしてるわけです。
少なくとも3枚おろしすべきだと思いますが。
最近そういう象徴としての3の勉強してます。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.10.24 10:16