浜崎あゆみ 『Duty』
音楽ネタが続いてますね。ジャンルはメチャクチャですけど。
今日の授業は詩人浜崎あゆみについてやりました。私は彼女のこと、100年に一人の天才詩人だったと思っています。
浜崎あゆみについては、彼女が歌手になる以前から、注目しておりました。つまりこちら、「渚のシンドバッド」ですね。あっ、天才女優だ!と思った。で、その後は歌手として、デザイナーとして、プロデューサーとして、そして何と言っても詩人としての彼女の才能に驚くことになりました。
彼女のアルバムはほとんど聴いていると思いますが、ワタクシ的にはやはり最高傑作はこの「Duty」(2000年発売)です。このアルバムの詩(あえて歌詞でなく詩と書きます)は、全体にものすごい力を持っています。繊細であり、しかし力強い。美しく、そして激しい。古くて、同時に新しい。現代詩の系譜の上で忘れるべからざる存在であると真剣に考えています。
このアルバム、音楽的にもなかなかの名曲ぞろい、20世紀の掉尾を飾るにふさわしい出来でありますが、やはり詩のすごさですね。彼女の思想と言語感覚。当時21歳ですか。単なるアイドルとは完全に一線を画しています。
彼女の詩に対する、私の基本的な解釈の姿勢は、全ての人称を一人称に読み替えるというものです。つまり、「あなた」とか「きみ」とか、あるいは「ぼく」などを全て「浜崎あゆみ」として読むというものです。これは、詩の世界ではよくある手法(作り手にとっても、読み手にとっても)ですね。彼女の詩は、そういった文学の方法を余裕で受け入れ、そして、それによってさらに成長していく素質を持っています。
今日の授業では、時間の関係から、「vogue」「SURREAL」「Duty」の3曲を選んで学習しました。その内容をちょっと紹介しましょうか。
まず「vogue」。これは明らかに自分を歌ったものですね。これを入り口にアルバム全体を解釈してゆくことができます。それにしても、商品としての自分に「もののあはれ」を感じるあたり、すでに達観していて恐ろしいですね。そして、その達観の末に「君を咲き誇ろう」という結論に至る。人類史上初めて「咲き誇る」を他動詞として使い、そしてそれを一瞬のうちに自然な共通イメージにまでしてしまう、このセンス。絶句です。ただ、詩全体としては比較的普通のレベル。
次、「SURREAL」。これも、暗示されている誰かや、「あの人」「君」などを一人称として読むと、過去の自分とのダイアローグが明確になってきます。ちなみに最後の2連では、「私」が過去の自分、「君」が現在の自分だと思うのですが。楽曲の作りもそう考えると納得できますよ。菊池一仁さんもいい仕事してますな。それにしても、厳しい詩ですね。アイドルのヒット曲の歌詞の次元ではありません。
そして、タイトル曲「Duty」。これは深い解釈が可能ですよ。時間と現象の本質、つまりは因果の法を説いてます。たしかに「義務」ですな。しかし、それを直視できない私たちがいます。「君」はもちろん浜崎自身とも言えますが、ブッダの次元で言えば(!)、我々人類、いや一切の衆生を指しているのかもしれません(笑)。
半分冗談みたいになっちゃいましたけど、とにかく彼女は「過去」を非常に大切にしていることがわかります。それは私たちには分かり得ない「過去」でありましょうが、そこを直視し、また愛おしむ姿勢には、大いに学ぶべき点があると思います。
さて、このアルバム以降の浜崎、つまり21世紀の浜崎は、ややパワーダウンしました。詩の世界もやや平坦になりました。作曲も手がけるようにはなったものの、そのクオリティーは高いとは言えません。しかし、私はそれで良かったと思っています。あの世紀末の鬼気迫る、身を削っての表現作業を続けていては、それこそ太宰治の二の舞いになってしまいます。彼女にはもう一度芝居をやってほしいですし、彼女の書いた小説も読んでみたい。彼女のデザインしたモノも手にしてみたい。だから、長生きしてほしいのです。佳人薄命で終わってほしくないわけです。
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コメント
よく聴いてたアルバム…。まさか…だったけど…。やっと見つけたよ。都をありがとう(^_^)
投稿: ピレミン | 2011.09.01 16:14