ステファン・グラッペリ&ヨーヨー・マ 『エニシング・ゴウズ』
Stephan Grappelli & Yo-Yo Ma 『Anything Goes』
このアルバムは非常に素晴らしい。とともに非常に興味深い。もちろん、グラッペリとマの共演というだけでも、充分に素晴らしく興味深いわけですけれど。
素晴らしく興味深いのだけれど、私はそんなにしょっちゅうこれを聴きません。なぜなら、申し訳ないのですが、ヨーヨー・マが下手に聞こえるからです。正直ちょっとじゃまなんです。音楽に。
マはいろいろなジャンルに挑戦する、素晴らしいミュージシャンです。本当に尊敬しています。彼の謙虚な学びの姿勢には本当に頭が下がります。ここでも、彼はグラッペリにジャズの表現を学び、彼ならではの吸収力と努力によって、それを見事に体現しています。たしかにうまい。
彼は、今ではピアソラを演奏したり、古楽器でバロック音楽を演奏したり、いろいろな民俗楽器と共演したりして、その芸域を広げています。そして、それぞれの分野で最高レベルの成果を残しています。ピアソラは文句なくかっこいいですし、いちおう私の専門分野でもあるバロックというジャンルでも、本当に感心するほどの名演奏をくりひろげています。
でも、どうもこのジャズはいかんのですよ。いやいや、充分上手です。マ単独の録音だったら、これは良かった。さすがヨーヨー・マ、ジャズもそつなくこなす、ということになったでしょう。そのへんのにわかジャズ・チェリストなんかよりず〜っとうまいわけです。でも、どうもいかんのですよ。つまり、相手が悪かった。グラッペリじゃあ、どんな弦楽器奏者も勝てません。
メニューインでも全然ダメでした。以前、テレビで観た古澤厳も全然ダメ。ジャズ・ヴァイオリンの大御所の一人スタッフ・スミスもタジタジだしなあ。もう、どうしようもないんですね。神様だから。寺井尚子なんて子どもみたいなもん。
結局、こんな具合なものですから、かのヨーヨー・マ氏がマイナス材料になってしまっている。そんな珍しいアルバムとして、実に素晴らしいし興味深いわけです。きっとグラッペリはいつものようにニコニコ演奏しているんでしょう。マもいつものようにニコニコでしょう。音から、そんな二人のニコニコが伝わってきます。でも、そのニコニコの中身がちょっと違うんですよ。マは尊敬する人と一緒に演奏できる幸福にニコニコしている。グラッペリはかわいい息子が一生懸命自分に似せようと頑張っている姿にニコニコしている。親子が遊んでいるようなんです。そのニコニコ&ニコニコ自体はたしかに美しい世界です。でも、そこに立ち現れる音楽もまた美しいかというと、これは別の話になります。
父親と5歳の息子が、野球をやっている姿は、それは微笑ましいでしょう。美しい。しかし、その野球自体がレベルの高いものだとは限りませんね。うん、そう、つまり、グラッペリ(当時80歳くらい)の前では、マ(当時33歳くらい)は5歳の子どもになってしまうわけです。あっ、ということは、親子じゃなくて、おじいちゃんと孫か。たしかにそのくらいの差が感じられる素晴らしく興味深いアルバムです。擦弦楽器をなさる方、必聴のレコーディングですな。
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コメント
はじめまして。
エレクトリック・バイオリンを弾いてます、もりぷとん(Moripton)と申します。
音楽に造詣の深い方と思って読み進めておりましたら、このアルバムの話が出てきて、驚きました。
もりぷとんは、主にクラシック以外のバイオリンを弾くものですから、グラッペリ氏やスミス氏のアルバムは毎日のようにリピートして聴いています。
ヨーヨ・マ氏とグラッペリ翁の共演ということで、特に期待せずに聴いていたのですが、じっくりと聴くほどに、「意外」とヨーヨー・マ氏の演奏が”いい感じ”だと思うようになりました。
確かにグラッペリ翁と比較すると、ジャズっぽい感じは弱いですが、ボサノバ系統の曲では、チェロがいい感じに入ってたりします。
実は、もりぷとんは、この作品でヨーヨ・マ氏を見直したのでありました~。
投稿: もりぷとん(Moripton) | 2005.09.25 20:01
もりぷとんさん、はじめまして!
エレクトリック・ヴァイオリニスト…かっこいいですね!
ホームページも少し拝見しました(拝聴しました)が、ホント素晴らしいです!
実は私もロックをやりたくてヴァイオリンを始めました。
ELO、KANSAS、UKなんかに憧れてました。
というわけで、いちおう謎のエレクトリック・ヴァイオリンも持ってます。
いつのまにか、ロックに「バ」がついてしまったのですが、
考えてみるといわゆるクラシックだけは全く弾いていません。
というか、全て自己流なので難しい曲は弾けません!
もりぷとんさんはどのように勉強されたのでしょうか。
ものすごくお上手ですよね。プロの方にそんなことを申し上げるのは失礼ですけれど(笑)。
今後ともぜひぜひよろしくお願いいたします!
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.09.26 08:17