うる星やつら 第101話 『みじめ!愛とさすらいの母!?』
ひさしぶりにうる星やつらネタです。
今日BS2で放送された『みじめ!愛とさすらいの母!?』は、非常にシュールで面白かった。何度も申しているように、私は今回の再放送でうる星初体験です。だいぶ遅れてます。
しかし、以前の記事(うる星全般・ニャオンの恐怖・決死の亜空間アルバイト・ビューティフル・ドリーマー)を御覧になると分かると思いますが、けっこう大人になってからの初体験でわかることというのも多々あるわけです、ハイ。
今回の『みじめ!愛とさすらいの母!?』に対するファンの方々の評価というのはどんなもんなんでしょうね。とりあえずは、本放送を見た子どもはワケわからなかったのではないでしょうか。私は『ビューティフル・ドリーマー』を観た後でしたし、いちおうかなりな大人になっていますので、興味深く観たのですが。
まずは、原作チェックを…ん?ああ、これってアニメオリジナルなんですね。どうりで押井色しか感じられなかったはずだわ。導入のあたるの母の独白の脚本からして、完全に押井さんの言語センス満載ですからね。こりゃ高橋留美子も呆れるはずだ。こういう実験的なことを、超人気番組で平然とやってしまう、やはり時代性ですかね、ちょっとうらやましい。
そうすると、この作品は『ビューティフル・ドリーマー』のプロトタイプとしてとらえていいということでしょうか。テーマはもちろん、映像的にも『ビューティフル・ドリーマー』につながる表現を見つけることができましたし。
押井さんがこだわる、夢と現実の関係。以前書いたように、それを夢物語メディアであるアニメで表現しているところが、彼の面白さであると思います。特に、あたるの母が逆襲に転じて語る言葉、「今そこにそうしているあなた自身、誰かの影でないとどうして言えるの。そう、もしこの部屋が私の産物なら、あなたを作り出したのも私かもしれなくってよ」…こうした不安というのは誰もが持っているものです。自分自身の不確かさに目をつぶる私たちに、アニメを通して問題提起してくれます。
ソシュールが語るごとく、この世のもの全ては、誰かに認識されないと存在し得ないものだとしたら…。私はその考え方を否定する立場の人間ですが、やはり、その可能性も予感しているわけです。だから、ちょっと恐い。恐いから否定するのかもしれません。
そういう観点からすると、この作品のもう一つのテーマと思われる「あたるの母のあたるへの愛情」もより鮮明に浮き彫りにされてくるのがわかります。『ビューティフル・ドリーマー』では、ラムちゃんのあたるへの愛情が邪魔者を消していきました。今回の作品では母のあたるへの愛情が、父やラムを消していったわけです。そう言えば、少し前に放送された『そして誰もいなくなったっちゃ!?』では逆説的にそういうことが表現されていましたね。あそこでは、夢ではなく「やらせ(お芝居)」だったわけですけど。とにかく、現実で邪魔者を消すのは犯罪になりかねない。しかし、夢やフィクションではそれが可能になるわけです。記号の消去。
夢と現実の多層構造、また愛情の自己中心的な性質、永遠性と刹那性。そしてそういうものたちが最も鮮明に純粋に現れる幼少期の記憶。こうした変わらぬテーマが、押井守の作品世界に底流していると思われます。なんて、まだ観てない作品がた〜くさんあるわけですけど…。まあ、私の独言ということで。
あっそうだ、あと今回の作品、個人的には、バーゲンセール会場での「あしたのジョー」パロと、プロレス技の大変優れた描写に感動いたしました。
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