政治と文学〜島田雅彦の文章から考える
お金がないので、ここ数年新聞をとってません。ひどい話です。これで国語やら現社やら小論文やらを教えてるわけですからね。なんとかなってますけど。で、新聞は父親が時々切り抜きをまとめて持ってきてくれるんですよ。それをまとめて読む。文化欄とか、時事論文が主ですね。昨日も父がデリバリーしてくれました。
その中でも、今月の24日の朝日文化欄は面白かった。「文字・活字文化振興法」についての文章も興味深かったけれども(いやはや、文字と活字を並列するのもどうかと思いますが、振興ってのもねえ)、文芸時評の島田雅彦さんの文章がなかなかの優れもの。「歴史も出来事も抽象化する政治に対し、文学はあくまで細部への拘泥によって歴史や出来事を具体化する」と締められています。なるほど、と思わせます。
しかし、作家であるはずの島田さんは、ここでは戦後日本の文学やアニメやオタクやナショナリズムを物語化しているのであって、それは文脈を与えるという意味では、見事な抽象化と言えます。つまり、評論家としての作業ですね。最大公約数を導き出す政治的抽象とは違いますが、そうですねえ、政治的抽象の前段階になるのでしょうか。歴史や出来事に答え(意味)を与えるわけですから。その答えを起点に政治が動く。
そう考えると、作家が評論家的な仕事をするというのは、ある意味自己矛盾に陥る可能性をはらんでいるわけで、たとえ生きていくためだとしても、勇気のいる行動ではないかと思われます。島田さん自身も「アニメは文学に取って代わるジャンルとなった」と書いています。文学をやる人(作家?小説家?それとも…)は大変だ。
ところで、ここで思い起こされるのは、抽象化よりも細部に拘泥して、政治で文学しちゃうこの人のことですね。これからの日本なんていう抽象的なことよりも、郵政という具体的なものの方が一般人にはわかりやすい。いわばオタク的思考なんですよ。政治オタクというかオタク政治というか。未来の日本とか世界とかいう次元ではなく、局所に萌えてるのであって、それは外から見てもyes noが判断しやすい。
電車男ではないけれども、今ちょっとそういう男の再評価が始まってるんですよね。理想ばかり掲げて抽象論に終始しているヤツより、まず自分の得意分野でものすごい力を発揮するヤツの方がカッコいいんじゃないかって。その方が結局世の中を動かしていけるんじゃないかって。それこそ昔、文学が担っていた部分ですよ。そこを、アニメやマンガや、webの世界なんかが受け継いだ。そして、今、つまらないものの代表選手とされてきた政治までが、小泉さんの手によって萌えの対象になりつつあります。
これは憂慮すべき事態なのか、それとも歓迎すべき事態なのか。私にははっきりとはわかりませんが、ただ、小泉さんが、歴史に残る「政治作家」になるであろうという予感だけは確かにします。ミクロ的視点が実はマクロ的視点になっていた、ということは往々にしてあることです。文学の目指すところはそこですし…あれ?小泉さんは政治家だったっけ。
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コメント
衆院解散直後に書いたものですが、党首討論等見ても、やはり小泉さん一人いろんな意味で次元が違うなあと思い、トラバさせていただきました。明日こちらも選挙ネタ書くつもりです。
ところで、昨日、高校で蘊恥庵さんと大学の同期だったという先生に声をかけられました。もちろん以前から顔は見知ってる先生ですが、そういう狭い世界だったとは!です。
投稿: よこよこ | 2005.09.01 01:41
よこよこさん、コメントありがとうございます。
いいか悪いは別にして、久しぶりの作家兼パフォーマーですよ、小泉さん。
私はけっこう好きですけれどね。
同期のヤツとはMのことですな。悪友です。ゆっくり呑もうと言っといてください。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2005.09.01 16:21