『宇宙意識』 リチャード・モーリス・バック著 尾本憲昭訳 (ナチュラルスピリット)
約100年前に書かれ、さまざまな文献に引用されてきたという名著がようやく昨年翻訳されて出版されました。
著者はイギリスの精神科医。随所に、時代の、国家の、そして彼の職業の影響が感じられます。それはそれとして、基本的な内容は非常に興味深いものです。例によって乱暴に要約しましょう。
我々人類は他の動物と違い、種として大きな進化を遂げる。それはまた個人の進化をももたらす。その段階は、単純意識(動物にも存在する)から自己意識(人間に特有)へ、そして最終形態である「宇宙意識」へ。一般的に人間は自己意識を持つにとどまるが、歴史上偉大なる宗教家や哲学者、文学者などの一部は、宇宙意識にまで到達する。宇宙意識とは宇宙の生命と秩序に関する意識であり、それは地球と人類の存在すら変える可能性を持っている。しかし、人類の進化として見るならば、現代はいまだ自己意識の段階である…。
こんな感じでしょうか。なかなか説得力のある考え方です。おそらく大方の部分で正解であろうと思われます。私に限らず、彼の言う宇宙意識というものの存在は予感されるでしょうし、それを、例えば宗教という形で、あるいは科学という形で、また音楽という形で、とにかく個々人の興味を持ち得意とする何かを通じて、具現し実感しようと努めています。しかし、予感こそすれ、なかなかその意識を自己のものにできないのも間違いのない事実です。だから結局は第二段階止まり…。
つまり、我々凡人、というか世間で天才と言われる人においても、その宇宙意識の獲得は非現実的なものの範疇に入っているのです。ですから、著者が紹介する宇宙意識獲得者たちには「神秘体験」が伴う。そして、その扱いこそが一つの大きな分岐点となるような気がします。
著者もそれを見た一人のようですが、神秘体験の特徴は「光」であるようです。その事実(あるいは物語かもしれませんが)の意味するところが何なのか。または科学的な立場に立った時の「光」の特殊性…例えばそれが波なのか粒子なのか、光速だけが持つ特別な意味など…とどういう関係があるのか。そのあたりは凡人の代表である私には分かりません。しかし、そうした証明不可能であるけれども、何か予感を与えるものに対して、どうつきあうか。私は、そんなのトンデモだよ、とは言いきれません。
考え方によっては、そうした神秘体験や、それをベースにしたこの著書など、トンデモの権化のようだと言えるかもしれません。しかし、でも、なぜだか分かりませんが、私は一笑に付してしまうことができません。これは持って生まれた性質というか体質というか、どうにもなりませんね。たぶん、自分の能力や感覚や想念がとんでもなくちっぽけなものだと諦念しているのだと思います。イヌやコウモリに聞こえる音が聞こえなかったり、アリやハト以上に迷子になったり、木や石のようにじっとしていられなかったり、そんな事実を考えるだけでも、自己意識さえ揺らぎ始めます。せめて、予感だけは感じていたい。そう思うのがやっとですね。
バックの考えに従えば、人類は必ずや宇宙意識を持つに至るということですが、100年経った今、我々はどの程度進化を遂げたのでしょう。やはり、個人レベルで非常に低い確率であったように、人類のレベルでも宇宙意識はそう簡単に手に入らないのでしょうか。逆に自己意識の肥大化(私は言語という麻薬がその原因だと思います)が我々の進化を妨げているような気もします。恐竜のように肥大化して、結局は淘汰されたりして。
ちょっと差別的な物言いが気になる本でしたが、それは時代が時代ということで仕方ないですね。でもそんなこと以上に、いろいろと考えさせられちゃいました。
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