『力としての現代思想 崇高から不気味なものへ』 宇波彰 (論創社)
ちょっと小難しそうな本を読んでみました。どうも、私は頭が悪いようで、現代思想ってやつがよくわからんのですよ。構造主義についても、あんなふうに書いちゃいましたけど、実際には頭が悪くて理解できないのです。自分の実感にならない。言葉と概念だけは覚えても、肉になってないから、すぐ忘れる。それでもやっぱり生活レベルでは困らないから放置。仕事レベルでは現代文の評論の問題を解く時にちょっと必要。なにしろ大学の先生方の中には、いまだに過去の流行に乗ってる人がいますからね。象牙の塔。
現代思想って言っても、刻一刻と過去の思想になっていくわけでして、だからある時期、現代とかポストモダンなんて言われてた方々やコトやモノは、その商標を失ってしまって路頭に迷うことになってます。つまり現代思想とは、私にしてみれば、流行思想(現代ファッション)ということに他なりません。もともと流行に疎いっすからね、私。
んなわけで、あんまり期待しないで、ただイマドキのはやりってどんなだ?ちょっとのぞいてみて知ったかぶりするか、という程度の気持ちで読んでみました。そしたら、意外に面白かった!
だいたい「崇高から不気味なものへ」って、私の得意分野で言うと「モノ」そのものなわけでして、あるいは網野さんについて書いた中にあった「いかんともなしがたい、えたいの知れない力」の言い換えであるわけです。そういう意味で珍しく自分の肉にしみこんだような気がしました。
ここで語られているのは、「無限記号連鎖論」「ミメーシス論」「鏡像論」「アフォーダンス論」「凝視論」「崇高論」「不気味なもの論」「物語論」「メディアカルチャー論」「知識人論」「イデオロギー的国家装置論」「読むことの危機」…こんな感じで、一見難しそう、というか難しさの権化みたいな言葉が並んでいますけど、実際にはそんなでもない。だいたいファッションなんて格好だけってことも多いですからね。自分の言葉で言い換えていくと、意外になるほどと思えます。また、この本、それぞれの流行がそれこそ有機的に連鎖していて、続き物として読めるようになっているので、とっても理解しやすい。それぞれの流行が、やっぱり「現代」という生態系の中で、お互いに関係しあっている、ということがよく分かります。なるほど、流行もバカにできませんな。
で、一気に読んでみますと、やっぱり揺り返しと言うんでしょうかね、近代やら20世紀やらの反省が目に付きますね。言わば近代の知では排除された「モノ」の復権。哲学や科学、数学の世界でも、わりきれないモノたちをその舞台に引き戻しつつあります。これはワタクシ的にはうれしいことです。自分の心や存在さえわりきれないわけですからね。わりきれることに意味を見出さない姿勢というのは、世界の平和のためにも重要だと思いますよ。ここでも、ブッダの正しさが証明されつつあるのかなあ。筆者も『力』と言っているわけですし。
この本も、どうせなら、もう少し売れそうなタイトルでもつけて、大衆の流行に乗せちゃえばよかったのになあ。モダンの反省文として、もっと読まれていいと思いますよ。
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