『知らないと大恥をかく日本語の常識・非常識』 日本語を考える会 (角川学芸出版)
タイトルが非常識ですな。コンビニで500円で買いました。
本書213ページに「羊頭を懸けて狗肉を売る」が載っています。「見かけは立派でも、実質がそれにともなわないことのたとえ。また、宣伝は立派に見せかけて、実際は似て非なる粗悪品を売ること」とあります。この本もまさに羊頭を懸けて狗肉を売る…かと思うと、さにあらず。
実は、この本は「狗肉を懸けて羊頭を売る」なのです。いかにも安っぽい内容のように見せかけて、実質はけっこう立派。
まずは「知らないと大恥をかく」という枕ですけれど、はっきり申しましてこれはウソです。実際は、前半部はことわざ・故事成語・仏教語の語源などで構成されていてかなりマニアック。「知らなくても別に恥をかかない」内容になっています。後半の「ことばの使い分けの常識」というコーナーにも、たとえば「アナウンサーとキャスター」とか「許可と認可」とか「プロデューサーとディレクター」とか「新幹線と整備新幹線」とか、まあ知らなくてもそれほど恥ではないものが列挙されています。
さらに、タイトルの「日本語の常識・非常識」。これもウソですな。上にも書いたように、この本は、第一部「日常語の常識」第二部「ことばの使い分けの常識」ですので、「非常識」が見当たらない。考えてみると「日本語の非常識」って難しいですね。たとえばどんなんだろう。「世間的に非常識な日本語」ならわからないこともないけれども。というわけで、これも看板に偽りあり。看板では「はあ?」と思わせといて、実は常識的な内容なので、これも「狗肉羊頭」ということにしましょうか。
ところで、その213ページの「羊頭狗肉」ですけど、ご丁寧に4コママンガまでついてます。それが面白い。たいやき屋さんが「頭とシッポにもたっぷりアンコがつまってるよ」と宣伝します。それをOLとおぼしき女性二人が買って食べてみます。そして「なにこれ、頭とシッポにはアンコ入ってるけどおなかにはつまってない!インチキ!」というオチ。
え〜、これは羊頭狗肉なんでしょうかね。たいやき屋さんは「おなか」については言及していません。「頭とシッポにも」と言っているだけですから、ウソはありません。OLは「おなかはもちろん、頭とシッポにも」と解釈したのでしょうが、係助詞「も」が暗示するものが「おなか」とは限りませんし、もしかすると「頭はもちろん、シッポにも」の意味で使ったかもしれませんから、羊頭狗肉とは言えませんね。
てな感じで、この本、コンビニに陳列されるという、御本人にとっては全く予想外の境遇の中で、無理やりこういうタイトルを付けられ、いらぬマンガまで挿入されてしまった。まじ〜めな人がジャンケンで負けて、無理やりパーティー用変装グッズを着せられ、そら罰ゲームだ、あそこのコンビニで肉まん買ってこいって言われちゃったような(わけわからんな)…。その哀れさがなんとも痛快です。
御本人はきっと「知らないうちに大恥をかかされた出版界の非常識」を実感していることでしょう。
Amazon 日本語の常識非常識
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