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2005.07.06

『キリスト教は邪教です!(現代語訳アンチクリスト)』 ニーチェ(著) 適菜収(訳) (講談社+α文庫)

hjkkl 昨日のトンデモ本もすごかったけれど、こちらはもっともっとすごかった。そりゃあ、ニーチェですから。
 結局内容としてはコレと同じであり、衝撃としてはコレと同じくらいでありました。久々に大笑いしながら読んでしまいました。
 まず、はっきりさせておかなくてはならないのは、これはニーチェが書いてしまったトンデモ本のトンデモ訳であることです。いえいえ、二重の意味でのトンデモということではなくて、もともとトンデモなものを、しっかりそのトンデモテイストを生かしつつ、見事に翻訳したということです。これには正直言ってやられたと思いました。適菜収さんのそういった能力はホントにピカイチです。
 これはセンスの問題です。素晴らしい。山梨県民として誇りに思います。橋本治さんの「桃尻語訳枕草子」と同じレベルでの偉業ですな。私はこのセンスがわかる人とでないと仲良くなれません。
 で、そのトンデモなニーチェの意見ですが、ホントどうしちゃったんでしょうねえ、哲学のなれのはてなんでしょうか。しかし、考えようによっては、なれのはて、発狂死の寸前でなければこういうことは書けない。ここまでのことを、こういう物言いで…。結果、世界中を敵に回すなんて、それこそ死を覚悟でなければできない。そこがトンデモなんです。
 ニーチェが述べたことはほとんど正解でしょう、理論的には。本当は引用したいところですが、恐ろしくて引用すらできません。差別用語連発、罵詈雑言讒謗の限りを尽くしてキリスト教とキリスト者を非難し続けます。そのパラノイア的なプッツン度はトンデモの称号に実にふさわしい。
 ただ、ニーチェのトンデモは、例えばキムタカのトンデモとはちょっと違う。つまり、正解だということです。だから、昨日のフリーライターさんの言説とも違う。じゃあ、なんで正解がトンデモなのかというと、それを言っちゃあ野暮だろ、ということです。物語の否定。つまりは人間性の否定。世界の否定。神は死んだ(殺された)!と叫んだら自分も死んじゃった。哲学(的人間)の行き着く先がここだったわけです。
 こういう論理でキリスト教を否定したら、同様に、たとえば音楽も否定しなければなりません。そうすれば「音楽なしには生は誤謬となろう」と語ったニーチェ本人の生も誤謬になってしまいます。生きていけませんね。
 ただ、昨日も書きましたが、こういうデーヴァダッタのような人が現れないと、たしかに世の中は腐る方向に行くのです。そういう意味では、ニーチェ自身がイエス的な受難を買って出たとも言えます。そして、100年後の日本でこうして復活する。いいことではないですか。だって、ニーチェも結局こうして語り部になっていくんですから。かわいいもんです。自家撞着。因果やなあ。
 ところで、こうしてニーチェが復活したということ、このタイミングにはニーチェ以外の誰かの意思が感じられますね。今やキリスト教非難の本が書店に所狭しと積まれています。その隣には、さりげなく、仏教は素晴らしいとか、神道に癒されるとか、そういう本が置かれていますね。誰の意思なんでしょう。日本国民の集団気分
 この本の腰巻きはそういう意味で面白い。上の写真をクリックして確認してみてください。そして、この写真では見えませんが、背の部分には実にさりげなく、そして堂々と「仏教の素晴らしさを発見」と書かれています。
 私は基本的になんでもOKな人ですから、たとえばイエスは立派な実践者として尊敬しますし、ブッダは人類史上最も頭の良い人として尊敬します。同じレベルで出口王仁三郎も大好きです。問題があるとすれば、それぞれの(それぞれの弟子の)遺した言葉の扱い方です。その扱い方が教団を生み、教派を生み、洗脳を生み、対立を生む。もっと冷静に言葉とつきあわねば。いつかも書きましたけれど、ロゴスへの盲従が一番いけません。結局それは原理主義を生む。そしてそれを必死に否定すると、それもまた原理主義に陥る。
 トンデモとはつまり原理主義のことでありました。ニーチェ、お前もかいな!ってことで、この本は読者の原理度(プラスであろうとマイナスであろうと)を測る見事な踏み絵でありました。やっぱり歴史的人物の書くものは違うわ。

Amazon キリスト教は邪教です!

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コメント

『キリスト教は邪教です!』へのコメントありがとうございます。
 哲学者・小説家の適菜収と申します。
 このたび、ニーチェ哲学の核心を小説にした『いたこニーチェ』を刊行しました。

前作『キリスト教は邪教です!』から早4年。
このたび、ニーチェ哲学の核心を小説にした『いたこニーチェ』を刊行しました!
ニーチェの『善悪の彼岸』の内容が、笑いながら短時間で頭に入るという寸法です。

ごくフツーのサラリーマンが巻き込まれた、世界最終思想戦争。
現代日本に降臨したニーチェ教授による、世界一受けたい(?)
プライベートレッスンの中身とは!
ニーチェがわかって面白い、新感覚哲学小説。

(詳細はこちらまで)http://www.geocities.jp/tekina777/

 イラストは、テレビ朝日で絶賛放映中!
 『ねぎぼうずのあさたろう』の飯野和好氏。
 エディターは、現在170万部突破『夢をかなえるゾウ』の畑北斗氏です。
 なにとぞよろしくお願いします。

投稿: tekina | 2009.02.28 23:38

適菜さん、コメントありがとうございました!
いやあ、「いたこニーチェ」面白そうですね。
さっそく注文いたしました。
読みましたら、また紹介させていただきます。
さらなるご活躍を期待しています!

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.01 07:24

蘊恥庵庵主様

ありがとうございます。
たのしみにしております。

投稿: tekina | 2009.03.04 01:21

昨日届きましたので、さっそく読み始めました。
お、おもしろい!そして勉強になります。
また近い内に記事にしますね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.03.04 07:58

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» マリリン・マンソン VS ニーチェ 第二戦 2003.6.X 初出 [仙台インターネットマガジン ★仙台のフリーネット雑誌]
というわけで、マリリン・マンソンが ニーチェを読んでいた事を僕は発見したのです。... [続きを読む]

受信: 2005.07.26 21:24

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