『笑の大学』 三谷幸喜脚本 星護監督作品
菊谷栄が戦死したことを考えると、なんとも後味の悪い映画です。
いきなり、こういう感想というのもなんでしょうが、この映画、というか、この脚本にこめられた脚本家としての想いを正確に味わおうとすれば、おそらく誰しもがこのやるせなさを感じることになるでしょう。
私が全編に強く感じたのは、笑いとは何かという問題よりも、喜劇と悲劇の関係性についてでありました。そういう意味では、こちらに似た気持ちになりましたね。喜劇の、笑いの裏にある悲劇、哀しみ。いや、哀しみがあるからこそ、そこに笑いが必要となる。それが個人的な次元であれ、社会的な次元であれ。当たり前のことかもしれませんけれども、そんなことを再確認させられました。特に日本人はそういう点に弱い。いや、強いのかな。とにかく、そういった裏側に裏付けられた表側みたいなものに敏感なんですよね。私もそうです。
映画としての評価は、正直微妙なものがあるでしょう。あまりに舞台の方が有名ですから。と言っても、舞台、私は観ていません。だから比較も何もできません。ただ、やはり映画的になりきれなかったなあと。ものすごく舞台チックでした。まるで舞台を観ているよう。もちろん、意識してのことでしょうけれども、映画ファンには辛いところもあったのでは。演技も装置もコテコテですから。第一、脚本がほとんど舞台のままですからね。総合格闘技ファンがプロレスを観るような違和感があるのではないでしょうか。私はプロレス派ですから、全然OKでしたけど。
役所広司はいつもながらそつなく役をこなしています。稲垣吾郎は彼なりに頑張っていると思います。吾郎ちゃんは最初やばいかなと思わせますけど、だんだんこういう人もいるな、と思わせる演技をしています。かなり一生懸命に役になりきろうとしている。それがそのまま役の一生懸命さになっている。まあ偶然かもしれませんが、結果としていい演技になったと感じました。元来彼の明るさには翳がありますし(笑)。ミスキャストではないと思いますよ。いろいろ言われてるみたいですけど。
そんなこんなで、なかなか楽しめた、しかし切なくさせられた作品でありました。まさに三谷幸喜の面目躍如。大いに笑ってホロっという俗なレベルを超えた、言葉になりにくい深みのある感動、そう「もののあはれ」を感じさせる名作でありました。
Amazon 笑の大学
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