『十二世紀のアニメーション 国宝絵巻物に見る映画的・アニメ的なるもの』 高畑勲 (徳間書店)
昨日のおススメであるベビースターラーメンは三重県が誇る歴史的遺産です。あっ、もちろん伊勢神宮もです。あと、もう一つあげるとすれば、高畑勲さんでしょう(すみません、メチャクチャで)。
以前ここでおススメした高畑勲さんの「十二世紀のアニメーション」。あの時はまるで読んだかのような書き方をしてますけど、自分のものとしては最近ようやく手に入れたのでした。で、あらためて読んで、観て、とにかく仰天。こんな興奮は久々です。感動じゃなくて興奮だな。いやあ、ホントに面白い。これはものすごい名著ですよ。そして示唆に富む。
高畑さんのアニメについては、「火垂るの墓」しか観ておりませんし、こちらでは、その作品についてやや批判的な論調で語っております。しかし、それはあくまであの作品のテーマが持つ特殊性のためであり、純粋にアニメ作品としては、なかなか美しい作品に仕上がっていると思います。そうした優れたアニメ作品というか、高畑さんの作家性のベースに、これほど豊かな絵巻物の世界があったとは。驚きであります。
驚きと言いますのは、二重の意味での驚きです。
まず、高畑さんがそういう研究もされていたということ。それも学界に激震を起こすほどの「再発見」をされたということです。この本で解説されていることは、まさしく我々が忘れていた視点…それがオリジナルな真実であることは間違いないのですが…を思い出させてくれた。時代や学問や常識によって曇らされた我々の目を、澄んだ光でもって洗い流してくれた。そういう驚きです。
そして、語られる絵巻物たちの、あまりにハイテクニックで、あまりにアヴァンギャルドで、あまりにクリエイティヴなことにビックリ。こんなものが、12世紀の日本に存在したとは。これは、たしかに日本人ならではの技。語弊があるかもしれませんが、オタク的精神とオタク的職人芸のなせるわざ。世界的に見ても、これほどシャレたメディアはそうそうありませんよ。今まで、私は何を見てきたのだろう。教科書や美術館ではダメだ。
ここでは、高畑さん自身の発見の興奮が伝わってくるような、熱っぽい、しかし、平明な解説がくりひろげられています。あっ、そうだ。だいたいが「繰り展げる」が、クルックルッと巻き取りながら場面を展開させていく絵巻物を観る動作だったとは、知りませなんだ。国語教師として恥ずかしい。
とにかく、ありがたく宝蔵されている絵巻物の数々を、現代の映画的・アニメ的視点から、ガンガン分析して、再生させてゆくわけですが、その解説一つ一つにシロウトでも自然とうなずかれる。なるほど〜とうならされる。本当にエキサイティングな分析です。そして、いつの間にか、高畑さんも言うように、絵巻物の物語的世界に引き込まれている自分がいるわけです。そう、高畑さんと絵巻物自身の、二つの語りに呑み込まれてしまうのです。
いやはや、日本人はすごいですね。ちょっと自慢したくなっちゃいますよ。これに比べたら、西洋の絵画や絵本のなんと狭苦しいことか。随所に見られる「逆遠近法」「異時同図」など、これは人間の脳内のイメージとしてはリアリズムなんですよ。西洋的なリアリズムなんて、ただの現実投写に過ぎません。スケールが違う。
この本を体験し終えて、私の頭に浮かんだのは、次のことばでした。
「現代映画・アニメに見る国宝絵巻物的なるもの」
絵巻物おそるべし…。そして、やはりこちらにも通ずるものを感じました…。
Amazon 十二世紀のアニメーション
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