『赤瀬川原平の名画読本―鑑賞のポイントはどこか』 (知恵の森文庫)
今年の4月に文庫版が発売になりました。この本は「名画読本〈日本画編〉どう味わうか 」「日本にある世界の名画入門」とともに3部作として光文社カッパブックスから発売になっていたものです。文庫版になるということはそれなりに売れていたのでしょうか。教科書にも採用されていましたね。冒頭のモネの章。
以前この3部作は読んだことがありますが、ちょっと必要がありまして再び読み返しております。今日は「日本画編」の後半を読み終えました。いやはや、この3冊はとんでもない名著ですね。お変人の私にとっての名著ですから、はたして万人にとってもその通りであるかはわかりません。しかし、赤瀬川先生の原平力(私はそう呼んでいます)が、いわゆる古典的作品にも十分に働き得る、いや働き得るのではなく、今まで以上にそのパワーが発揮されると言うべきでしょうか、そういう意味では確かに名著です。
赤瀬川先生の偉大さの一つは、人々が気付かないモノやコトの価値を、私たちの目の前に立ち現れさせる点にあります。トマソンしかり、老人力しかり、優柔不断術しかり、新解さんしかり。私もそのおかげで、今まで見えなかった世界に目を開かさせていただきました。そういう意味では師匠です。
しかし、この3部作で先生が俎上に乗せているのは、いわゆる「名作」ばかり。もうすでに十分すぎるほどの視線を浴びてきたモノたちです。その意味では、もうすでにモノではなくコトになってしまっている。そのすでに事実化してしまった名作たちに原平力がどう太刀打ちするのか。これは読む前から大変な興味をそそられます。
結果として、事実化して硬直化した名画たちが、原平力によって実に生き生きと蘇らされております。なんという自由な視点と想像力。もちろん先生の頭や体の中には、知識としての名画というものもインプットされていることでしょう。しかし、それをふまえつつもそれに縛られることなく、それらとたわむれてしまう余裕。これはよほど自らに自信がなければできないワザです。
そして、そうして可能になった名画との対話を、これまた見事に力みの抜けた文体でテキスト化する。その結果がこれまたちっとも硬直化していない。たぶん自信に裏打ちされた謙虚さなのでしょう。あるいは謙虚さに裏打ちされた自信か。うらやましい限りです。
私は特に「日本画編」に強い感動、いや感動なんていう大げさなものではなありませんな、喜びでしょうか、ワクワクでしょうか、とにかくそういうモノを感じました。誰かさんのおかげでコト化してしまった何かが、原平力によって見事にモノとなり、ふにゃふにゃになって、勝手に変化してこちらに開かれる。まさに伝説化してしまっていた名作たちが開陳されて、そこに違った風景が広がる。新しく発見される名画たち。きっと名画たちにとっても、またそれを遺した天才たちにとっても、ものすごく幸せなことなのだと思います。
名画がもう十分お好きな方、名画のどこがいいかわからないで来てしまった方、双方に読んでいただきたい。そして、今度は自分の視点を持って、名画の再発見に挑んでいただきたい。私がこんなことを言うのもなんですが、とにかくこの喜び、ワクワクをどなたかと共有したいのです。アカデミックな世界とは違うところで、世界について語り合いたいのです。
Amazon 赤瀬川原平の名画読本
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